レガシィ”DIT”が300馬力なのに、なぜフォレスターは280馬力なのか、気になりませんか?
ここでは、フォレスターが280馬力に出力を抑えている理由を、リニアトロニックの観点と加速性能の観点から説明します。
目次
1.エンジン性能の差
フォレスターを購入検討の方で、レガシィと同じエンジンなのに、
レガシィは300馬力,フォレスターは280馬力・・・
なんでだろう?って気になる人もいるはず。
280馬力は十分な出力です。
でも、300馬力出るのに280PSに絞ってる?
なんだかスッキリしませんよね・・・
では、いっしょに考えていきましょう。
2.エンジン性能の比較
まずは、レガシィとフォレスターのエンジン性能を比較しましょう!
エンジン性能曲線も載せます!
※馬力=PSです。
レガシィ
水平対向4気筒 2.0L 直噴ターボ”DIT”
400Nm/2000-4800rpm
300PS/5600rpm
フォレスター
水平対向4気筒 2.0L 直噴ターボ”DIT”
350Nm/2000-5600rpm,280PS/5700rpm
やはり、単純に比較しただけでは、フォレスターXTがパワーの出し惜しみをしている感じがして損した気分になりますよね。
3.トランスミッションを眺める。
トランスミッションはどちらも同じ「高トルク対応リニアトロニック」です。
そこで減速比(=ギア比とも)を眺めます。
レガシィDIT:3.105~0.482 最終減速比4.111
フォレスター:3.505~0.544 最終減速比4.111
とりあえず、最終減速比は同じ。
でもリニアトロニックでの減速比が違う。
この部分について計算すると、レガシィを基準にすれば、フォレスターは減速比がちょうど1.129倍になってます。
これは、フォレスターに、エンジンからのトルクがリニアトロニックに入力される前に、減速が入っているからですね。
ところで、この減速比(=ギア比)が大きいと何が変わるかについて、簡単に説明しておきます。
エンジンはトルクを発生すると、ギアで回転数が下げられて(=減速されて)タイヤに伝わります。
その減速される割合が変速比で、「1/変速比」倍になります。
例えば、レガシィの場合、発進時には、
リニアトロニックで3.105
最終減速比で4.111
よって3.105×4.111=12.765
つまり、エンジン回転数が、1/12.765されてタイヤに伝わります。
この時、トルクは増幅されて、12.765倍されてタイヤに伝わります。
つまり、原則にが大きいとそれだけ回転数が減少し、代わりにトルクが増大されることになります。
これが分かれば、あとは数値計算と、計算結果からの考察です!
4.瞬発力と許容トルクの影響
減速比が大きいと、回転数が小さくなり、逆にトルクが大きくなる。
つまり、ギア比の大きいフォレスターのほうがトルクの増幅が大きいため、瞬発力が上がることになります。
でもその前に、リニアトロニックの許容トルクの問題もあります。
まずは、リニアトロニックの許容トルクの観点から説明していきます。
スバルに依れば、リニアトロニックのの最大許容トルクが400Nmです。
フォレスターの最大トルクは350Nm
フォレスターは、CVT入力前に1.129の減速をすれば、入力される最大トルクは、
350Nm×1.129=395.15Nmとなります。
トルクは減速比倍されるからです。
395.15Nmのトルクは、許容トルク400Nmのリニアトロニックにとって、かなりパツパツなんです。
つまり、減速したことによって、リニアトロニックの許容トルクを超えないように最大トルクを350Nmに絞った。
トルクが決まれば馬力が決まります。
その結果、馬力は280PSにダウンした。
こういう事実が分かりますね!
でもまだ疑問は残ります。
なぜ馬力が落ちてるのに瞬発力があるの?
馬力のある方が、加速が良いはずですよね?
5.本当なの?~馬力のあるクルマは加速が良い~
馬力のあるクルマ、いわゆる最高出力の高いクルマが加速が良い。
この考え方は正しいです。
しかし、それはMaxパワー付近での加速であって、
エンジンの「立ち上がり部分」での加速は別の話となります。
しかし、フォレスターが280馬力になっている理由は、エンジンの立ち上がり部分での「馬力=加速」という考えがかなり重要になってくるのです。
なお、加速と馬力の関係については、次の記事をご覧ください。
6.なんで瞬発力が上がるのか?
条件は、「お互いの変速比をそろえる。」
考察を行う上で、基準がずれてるから意味が分からなくなる。
基準がずれた考察は、考察として意味がありません。
エンジン単体で考えるからややこしくなります。
今後、すべての基準をレガシィに置きます。
フォレスターは、レガシィに比べ、リニアトロニック入力前に1.129の減速があるので、
「CVT入力前をエンジン」として置き換えます。
何度も書いていますが、
大事なのは、リニアトロニックに入力される回転数に対するトルクや馬力を見るということです。
フォレスターとレガシィの違いはリニアトロニックに入力される前の1.129の減速の有無です。
エンジン→1.129の減速→リニアトロニック→最終減速比→タイヤ
ここで、エンジン→減速1.129をエンジンで置き換えると、以後、タイヤまでの減速比の条件がそろいます。
レガシィは減速がないので、エンジン性能そのままの
400Nm/2000-4800rpm,300PS/5600rpm
がリニアトロニックに入力される。
フォレスターは1.129の減速により、
トルクが1.129倍,発生回転数が(減速されるので)1/1.129倍され、
395.15Nm/1771-4960rpm,280PS/5048rpm
となります。
想像できますか?
※余談ですが、馬力はトルク×回転数
トルクは1.129倍され、回転数は1/1.129倍されるため、280PSそのまま変化せず。
6.実際に描いてみよう!
手順1
まずは、Excelでエンジン性能曲線の代表点をプロットします。
トルク曲線から描きましょう。
出来るだけ正確に。
トルク曲線は比較的直線なので、プロットしやすいですね。
傾きが大きく変化するところを代表点に選びます。
また、レガシィでは211kW(300PS)/5600rpmとあるので、逆演算で5600rpmでのトルク計算が可能です。
フォレスターも、206kW(280PS)/5700rpmで、逆演算ができる。
それらを直線で結びます。
手順2
つぎに出力曲線です。
計算がややこしくなるので、ここからはPSではなく、kWを使います。
その方がSI単位系に揃うため、計算がしやすいから。
正確なトルク曲線が描けたら、出力は、
出力[kW]=2π×トルク[Nm]×回転数[rpm]÷60÷1000
で計算できます!
このようにして描いた結果が、次のようなものになります。
まずは、レガシィです。
次に、フォレスターです。
そして、「リニアトロニック入力前をエンジンとして見た」という条件の元、エンジン性能曲線を書き直します。
7.性能曲線を書き直す~リニアトロニック入力前をエンジン~
レガシィは「基準」なのでそのままですね。
フォレスターのイメージは、
・トルク曲線を1.129倍
・出力とトルク曲線を回転数軸に対して1/1.129倍
すればOK!
これでお互いに「変速比の条件」がそろいましたね。
書き換えたフォレスターの性能曲線がコレ↓
8.いったい何が分かるのか?
レガシィ,フォレスターの出力曲線に注目しましょう!
馬力のあるクルマは加速が良いことは、先ほど解説しました。
この性能曲線は、ちょっと見えにくいですね。
1000-4000rpmを拡大します。
エンジン回転数が低い領域では、フォレスターの馬力はレガシィを上回ります。
したがって、瞬発力はフォレスターのほうが大きいのです。
ターボ車にはターボラグがある。
ターボの魅力はターボが効いた瞬間の爆発的な加速力!
レガシィDITもS#で全開加速すると、3000rpm手前まではおとなしく、
3000rpmから4000rpmでパワーが非線形に立ち上がり、
そのままレブリミットまで伸びやかな加速を披露してくれます。
いやぁ~さすがはスバルのターボですな。
フォレスター280馬力の理由はターボラグを抑えるため
そう、ターボラグです。
一番の理由はターボラグ!!!
グラフだけ見てても気づかないところです。
何度も再掲しますが、1.129の減速が入った後の特性はほとんど似ています。
ターボラグを考慮していないこのグラフから見れば、リニアトロニック自体の、角加速度(回転が速くなっていく割合)自体は同じです。
それではターボラグを考慮しましょう。
「ターボラグにより、エンジンの低回転からの立ち上がり付近で現実的に発揮されるパワーは、性能曲線よりも低い」わけです。
でも、フォレスターのエンジンは、レガシィより1.129倍多く回っています。
経験談から、DITエンジンのターボが十分効く回転数が4000rpmとすると、
フォレスターの場合、エンジン回転数が4000rpmの時、リニアトロニックへの入力回転数は3543rpm、
すなわち、(上のグラフで言えば)3543rpmからターボが効いていることになります。
なんと(疑似的に)500rpm手前でターボが掛かるわけですね。
フォレスターは280馬力になっていますが、ターボラグを抑えることで、瞬発力を向上させています。
レガシィの優れる点(フォレスターと比較)
最後に、レガシィのほうが優れている点について紹介します。
大きくは2つです。
これらはスペックから明らかなので、簡単に説明します。
①中速以上からの加速特性
②走りの余裕
①中速以上からの加速について
キックダウンで、十分回転数があげれるような速度域からの全開加速では、
20馬力の差でレガシィの加速が良いです。
どちらも最高出力発生回転数を維持して加速するから当たり前のことですよね。
経験上、具体的に「キックダウンで、十分回転数があげれるような速度域」とは、
40km/hは微妙、
60km/hなら多分大丈夫、
80km/hならS#の1速で6100rpmであるので完璧です。
②走りの余裕について
今までの議論では、アクセル全開と言う、エンジンを振り回す状況を考えていましたが、
今度は実際の走行状態を考えます。
スペックから、ターボがしっかり効いた状態では、レガシィの方がトルクが太いので、
低回転でも十分な馬力が発揮できていると言えます。
走行中に、追い越しをしたいときとか、軽くアクセルを踏むとき。
走行中はある程度ターボも機能している状態なので、ターボラグの影響は小さくなります。
そうなると、エンジンスペックの影響がそのまま走りに出てくるので、レガシィの400Nmとフォレスターの350Nmで、50Nm分の余力の差が出ます。
これが、走りの余裕につながります。
9.燃費はどうか?
基本的に変わらないです。
定速走行時は、フォレスターはリニアトロニックを1.129だけ重いギアにすれば、
1.129の減速比を打ち消せます。
つまり、レガシィと条件が揃うわけです。
代車でフォレスターにも乗りましたが、燃費は悪くなかったです。
高速道路で16.4km/L出たこともあります。
平均燃費も9km/L代ですね。
まとめ
ここまで、フォレスターのDITエンジンが280馬力に抑えている理由について説明してきました。
ネットで検索すれば、実データでは、「フォレスターの方が0-100が速い」という結果が得られますが、
エンジンスペックが劣るフォレスターが、なぜ0-100が勝るのか?
その理由を説明した記事はほぼゼロでしょう。
一般に加速性能は、「パワーウェイトレシオ」という言葉で評価されます。
ですが、それは最高出力回転数付近の加速力が大半を占める、
つまり、アクセル全開状態が長時間続く場合にのみ有効になります。
したがって、ゼロヨンの予測などでは、「パワーウェイトレシオ」の評価でほぼ十分ですが、
0-100など、エンジンの立ち上がり部分が大きく効いてくる場合には、今回の様な「エンジンの立ち上がりの特性」に関する真面目な議論が必要になります。
最後に、レガシィDITは生産終了されていますが、
今でもレヴォーグ,WRX S4と同じ議論ができます。
これら2車種は、レガシィとは5600rpm以降の性能曲線が若干変わってます。
ですが、5600rpmまでの性能が同じなので、議論の内容は変わりません。