【リニアトロニック/CVT】ステップ制御による伝達効率の向上について

みなさん、こんにちは!

ブリュの公式ブログ.comにお越しいただきまして、ありがとうございます。

今回は、CVT車、特にスバルのリニアトロニックでよく目にする、ステップ制御について紹介します。

CVTのステップ制御は、

  • 雰囲気演出だけの制御
  • CVTのメリットをスポイルする

と、なかなか評判が悪いようですが、実は伝達効率の面でみれば、意外にもメリットがあります。

今回は、各種の特許文献を調査し、CVTのステップ制御によって、

  • 伝達効率の向上
  • ドライブフィーリングの向上

について紹介していきます。

実際の計算例では、レガシィ”DIT”のS#モードにおける8段ステップ制御を取り上げます。

あまりにも記事が長いので、この記事の結論について先に説明しておきます。

当ブログでは以前、機械的な構造から、変速中に摩擦力が発生するから固定ステップ変速のほうが効率が高いと考えました。

スバルのリニアトロニックが伝達効率の関係上S#モードで8速の多段変速を用いる理由

さらなる詳細な文献調査の結果、確かに変速制御中に機械的に摩擦が生じることもあるのですが、それに加えて油圧の損失も増大することがわかりました。

つまり、CVT変速制御中には、

  • 機械的な摩擦
  • 油圧ポンプの損失

が生じます。

変速比の変化率を小さく抑えつつ、エンジン出力が最高になる付近をできるだけ長く使う必要があります。

これらの実現のために、曲線的な制御曲線や、切片を持っている直線関係の制御曲線による、固定ステップ制御が最適であるという結果になります。

なお、

  • エンジン出力”だけ”を見るのであれば、回転数一定制御(ギア比:常時変動)
  • CVTの伝達効率”だけ”を見るのであれば、完全な固定ギア比制御

が最適です。

これらは相反する関係なので、上記のように、パワートレインとしてシステム全体の出力を最大化できるよう、お互いのいい部分を取り入れた制御が行われています。

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一般的なCVTのメリットとステップ制御

CVTと多段変速AT

一般的に想像する自動でギアをアップ・ダウンするのは多段ATです。

一方でCVTとは、ギア比を無段階に制御するトランスミッションのことを言います。

下の図の緑は6速ATのイメージ、黄色はCVTのイメージです。

6速の多段ATでは6本の緑の線の中からギア比を選択し、走行します。

CVTの場合には、黄色で塗りつぶした全域で任意のギア比を選ぶことができます。

一般的にCVTのメリットは、「エンジン回転数の一番効率の高い回転数を維持したまま加速することができる」ということがあるでしょう。

通常の多段AT車の場合には、加速中にシフトアップするたびにエンジン回転数が変化します。

そうなれば、エンジン回転数が最高出力発生回転数から離れてしまうので、エンジン自身は性能を十分に発揮できていないことになります。

CVTの場合にはギア比を無段階に制御できる、言い換えるなら、エンジン回転数と車速の組み合わせが無限大のパターンがあるので、車速変化中にエンジン回転数を一定に保つことができます。

つまり、エンジンの最高出力発生回転数一定に保つことで、最も優れた加速性能を発揮できるようになります。

多段ATは上記のように、エンジン回転数が変動することによって、最高出力点を維持しにくいデメリットがありました。

そのため多段ATは、4速、5速、6速と、どんどん多段化していき、今では9速や10速のモデルも目にするようになりました。

そして、その究極形態がCVT(無段階変速)です。

CVTでは、変速段という概念がなく、構造上設定可能な変速比幅において、無限段の変速を可能にしています。

言い換えれば、無限段ATということになります。

CVTとドライブフィーリング

多段ATの場合、エンジン回転数と車速が常に比例します。

そのため、ギアを変速するたびにエンジン回転数も変動しながらリズミカルに加速していきます。

一方のCVTは、無限段の変速を生かして、エンジン回転数一定のまま加速していきます。

このCVTの変速制御が、一昔前の車と比べると、運転に違和感を感じるという意見もあります。

そのため、CVTをステップ制御し、あたかも多段ATのようなシフトパターンを行うことで、フィーリングの向上が行われています。

しかし、CVT搭載により、無限段変速を実現し、せっかく最高出力を維持できるトランスミッションが開発できたにもかかわらず、わざわざステップ制御によって多段変速する。

この部分が、

  • 雰囲気演出だけの制御
  • CVTのメリットをスポイルする

と言われる原因ではあります。

検討内容

しかし、CVT変速制御は本当に演出だけでしょうか?

エンジン回転数を、最高出力点の1点だけで維持すれば、エンジン自身の性能は最大限発揮できますが、これにはCVTが常に変速動作を行わなければなりません。

そこで、CVTの伝達効率まで含めた、パワートレイン全体のシステム出力までを考慮するとどうでしょうか?

すでに説明した通り、CVTには油圧が使用されており、CVT変速動作中には損失が発生しています。

そこで、

  • CVTの伝達効率が最高の瞬間
  • CVTの伝達効率が大幅に低下する瞬間
  • エンジン性能を十分発揮できる回転域

について総合判断するために、特許などの文献調査を行いました。

その結果、ステップ制御がフィーリングの問題ではなく、伝達効率も考慮した総合的な加速力として優位性があることが確認できたことになります。

CVTの構造と損失および伝達効率の向上

CVTの基本構造

CVTの基本構造については、当ブログをご覧の方であればすでに知っている方も多いと思います。

簡単に説明すると、V字型の金属ベルト(あるいは金属チェーン)をプーリーで挟み込み、駆動力をベルトとプーリーの摩擦で伝達しています。

プーリーは左右方向に移動でき、これに伴ってV字ベルトの巻きかけ径が変化します。

以上の動作で、

  • プライマリープーリー
  • セカンダリープーリー

の巻きかけ径が変化し、無段階の変速を可能にしています。

Tips

参考にですが、巻きかけ径を調整するのがプライマリープーリーで、金属ベルト(金属チェーン)の張力を調整するのがセカンダリープーリーです。

プライマリープーリーの巻きかけ径を変化させれば、セカンダリープーリーの巻きかけ径は自然に変化します。

一方、セカンダリープーリーの挟圧を上昇させれば、プライマリープーリーはギア比を維持するために、より大きな挟圧が必要になり、結果として金属ベルト(金属チェーン)の張力が増加します。

CVTの基本構造については、以下の特許文献が参考になります。

無段変速機の変速制御装置 富士重工業株式会社 特開2006-207678

1~3ページ目に、一般的なCVTの基本構造、制御方法が明記されています。

本特許の内容としては、CVTの油圧系統が故障した際、特にプライマリー側が故障した場合にCVTギア比がLoになり、急激なエンジンブレーキが作動し危険であること。

その対策として、ある程度走行可能なギア比を維持し、安全停止できるような安全性を確保すること。

上記対策を行った場合、CVTがLoになれないので、停止後の再発進が困難であるから、この辺りをどうすれば解決できるのか、といったことが記載されています。

CVTの変速動作中の損失

CVTの変速動作中には損失が大きくなりますが、そのポイントとなるのが、

  • 摩擦損失
  • 油圧ポンプ損失

です。

摩擦損失は、下の図で赤で示している、

  • CVT変速動作によるプーリーの移動による摩擦
  • 金属ベルト巻きかけ径変化による金属ベルトとプーリー間の摩擦

があります。

油圧ポンプの損失については、変速動作中にオイルの流速が上昇するため、慣性抵抗および粘性抵抗によってポンプの負荷が増大します。

固定ステップ制御時には、上記のような+αの負荷は生じないか、あるいは最小に抑えられるので、CVTそのものの伝達効率は最大となります。

CVTの損失については、以下の特許文献が亜参考になります。

無段変速機の制御装置 トヨタ自動車株式会社 特開2015-113940

CVTの油圧と摩擦損失について、2ページ目 技術背景 0003に以下の記載がありました。

各プーリの外周のV溝に大きな力で伝動ベルトを挟圧して、その滑りを抑制しなくてはならないが、挟圧力が大きいほど伝動ベルトとの間の摩擦損失が大きくなってしまうし、大きな挟圧力を維持するためには高い油圧も必要になるから、エンジンの燃費が悪化するきらいがある。

CVT変速動作中のオイルポンプ損失については、3ページ目 1行目~2行目において、以下の文章がありました。

一般に変速動作中は油圧制御回路の油路を流通する作動油の流速が高くなるため、その慣性抵抗および粘性抵抗が増大し、ポンプ負荷が増大する。

この特許の内容の概要としては、CVT損失低減のためにCVT油圧を必要最小限にしたい。

そのために先行文献などで、エンジン性能とギア比などからなる制御マップが考案されているが、変速中には油圧の損失が増すので、エンジントルクが減少する。

結局、CVT油圧が必要以上に高圧になって、伝達効率の低下につながっている。

そこで、CVT変速中に(CVT固定ギア比状態に対して)エンジントルクが減少することを踏まえれば、CVTにおいて必要となる油圧が小さくなるので、これにあわせてCVT油圧を低下させることで、

  • CVT油圧損失の低減
  • 摩擦損失の低減

を狙おうとしているものになります。

変速中のCVT油圧の変化については、以下の特許文献が参考になります。

Vベルト式無段変速機のライン圧制御方法 日産自動車株式会社 特開昭58-191361

この特許は変速制御とCVT油圧変動について記載があり、一時的に油圧を上昇させる制御についての内容になります。

特に、p.399-401の記載が参考になります。

特許の内容を要約すると、急変速時には、油圧低下によってCVTベルトにスリップが発生し、エンジンが空ふかし状態になる。

これの防止のため、油圧を高めに設定すると、CVTのオイルポンプ損失の増加、およびCVTベルトとプーリ間の摩擦増加と損傷の影響がある。

対策のために、ベルトスリップ防止のために変速制御に制限を設けると、変速レスポンスが低下し、フィーリングが低下する。

そこで、急変速時においてCVT油圧を一時的に上昇させる仕組み。

以上の発明内容が記載されています。

CVTのステップ制御の優位性

そして、ドイツの特許では、CVTステップ制御の優位性が説明されていました。

フィーリングの向上についても説明がありましたが、CVTの固定ステップ制御によって、機械効率の向上が可能であると明記されています。

また、CVTを完全に固定ステップ制御にした場合、CVTの特定のギアを常時使用することで負荷が集中するため、少しの変速を行うことも可能です。

参考

先のトヨタの特許と組み合わせれば、CVTの変速中に効率が低下する現象は、常に発生するのではなく、多少の変速率は問題ないということになります。

つまり、「”多少”の変速は許容する」の”多少”にあいまいさ、ある程度の許容量が含まれています。

メーカーが開発する際には、この許容量がどの程度であるか、そしてエンジン性能とのマッチングにおける見極めが重要ということになります。

CVTステップ制御の優位性については、以下の特許文献で紹介されています。

DE4120540C1(ドイツの特許)Google翻訳版はこちら

目的として、

  • ドライバーに速度の上昇を感じさせることで安全性につなげること
  • (ステップ制御により)CVT油圧ポンプの消費エネルギーを低下させ機械効率を向上させること

が挙げられています。

そして、固定状態のギア比については、わずかな変速を許容することで、固定ギア比部分の負荷集中による摩耗を防止します。

ステップ制御の伝達効率の優位性については、先ほどのトヨタの特許「特開2015-113940」で、「変速中は、作動油の慣性抵抗および粘性抵抗が増大し、ポンプ負荷が増大する。」といった趣旨の記載からも、複数文献で確認できているので、ほぼ確実といえます。

エンジン最高出力との兼ね合い

そして、日本の別の特許では、「特開2007-285530」がありました。

この特許は、先のドイツの特許で、

  • CVTの固定ステップ制御による優位性
  • ほんの少しのギア比の変化は許容

を前提とすれば、切片を持つような変速制御曲線を設定することで、

  • エンジン回転数変化と車速変化の比例関係(フィーリングの向上)
  • “ほぼ”固定ステップ制御の適用(機械効率向上)
  • 変速時のエンジン回転数変化量の抑制(エンジン効率向上)
  • エンジン回転数を可能な限り最高出力点近傍に維持する(エンジン駆動力の最大化)

を同時に行うことが考えられています。

なお、この制御曲線は直線ですが、必ずしも直線である必要はなく、別の関数(例えば2次関数とか)などへの汎用性の高さについても明記されていました。

エンジン最高出力との兼ね合いとしては、以下の特許文献があります。

無断変速機(原文ママ “断”が誤字と思われます) バン・ドールネス・ベー・ブイ 特開2007-285530

上記のドイツの特許DE4120540C1をベースにし、固定ギア比のほうが最も効率が高いことを前提にすることで、エンジン最高出力回転数との関係上、最高加速する制御法が提案されています。

特に、ドイツの特許で「わずかな変速」を許容している部分に着目し、多段ATと異なり、切片を持たせる制御(制御曲線をプログラミング)を行うことで、最高出力発生回転数付近を利用しようとする考えのものです。

これによって、

  • CVT変速率の最小化による伝達効率の向上
  • エンジン出力の可能な限りの最大化

を行うことを狙っています。

特に、切片を持たせる制御(エンジン回転数0rpmで車速0km/hにならない)のはかなりのポイントであり、多段ATでは実現不可な制御法といえます。

CVT(リニアトロニック)のステップ制御と無段階変速の変速パターン

では、

  • 変速比変化率を最小限に抑えつつ
  • 可能な限りエンジンの最高出力近傍を使用する制御

がどんなものであるかを、レガシィ”DIT”のCVT(リニアトロニック)でみていきましょう。

前提として、レガシィ”DIT”搭載のSI-DRIVEでは、走行モードが選択でき、

  • S#モード:8速ステップ制御
  • Sモード:無段階変速モード(加速の伸び重視)
  • Iモード:無段階変速モード(燃費重視)

となっています。

ここでは、S#モードとSモードの比較を行います。

S#モードの変速制御

S#モード時のフル加速におけるエンジン回転数と車速の変化を測定したのが下の表です。

車速 エンジン回転数 変速段
0km/h 0rpm(便宜上の値) 1速
40km/h 4500rpm
55km/h 5000rpm
80km/h 6100rpm
0km/h 0rpm(便宜上の値) 2速
95km/h 5000rpm
120km/h 6100rpm

この表をもとに、1速のグラフをエクセル上で示すと、下のようになります。

おおよそ40km/hから少しの変速制御が行われ、無段階変速により高回転域を長く維持しながらも、エンジン回転数と車速の変化量が比例の関係になる制御曲線が見えます。

そして、40km/h以上の無段階変速制御の部分を見てみると、線形性を維持しつつも、切片を持たせることで、高回転域で粘りのある加速を行っていきます。

先に紹介した「特開2007-285530」の内容そのままです。

CVT効率においては、無段階変速はできるだけ行わないほうがいいですが、「DE4120540C1(ドイツの特許)」で、多少の変速が許容されます。

そこで、

  • エンジン出力特性
  • CVT伝達効率

を総合判断し、システム出力が最大となるのが、下記の制御曲線ということになります。

2速の時も見てみます。

2速の時は、1速と同様に線形性を保ちつつも、切片が小さくなるので無段階制御の変化率は非常に小さくなっています。

つまり、1速よりも2速のほうがCVT伝達効率が高く、よりエンジンのパワーを効率よく駆動力に変換していることになります。

参考に、1速より2速のほうが無段階変速の変化率が小さくなるのは妥当な結果です。

2速のほうがギア比が小さく、特定の回転数(FA20″DIT”の場合には4500-6100rpm)に対応する車速の範囲が広くなります。

そのため、無段階変速制御を抑えても、エンジンの高出力域を長く使用できることになります。

最終的に、1速と2速のグラフを重ね合わせると、下のグラフになります。

グラフにおいて、

  • 点線:完全固定ギア比
  • 実線:固定ステップ制御

になります。

変速のタイミングのエンジン回転数変化を見てみると、無段階制御を行ったほうがエンジン回転数の変化を抑えることができ、エンジン回転数変化による損失低減が行われています。

さらに、無段階制御により出力200kW以上(最高出力の90%以上)の領域内での変速を行うことで、エンジン平均出力の増加が行われています。

Sモードの変速制御

次に無段階変速のSモードの変速制御です。

車速 エンジン回転数
0km/h 0rpm(便宜上の値)
40km/h 4500rpm
80km/h 5000rpm
100km/h 5400rpm
110km/h 6500rpm

以下のような変速制御になります。

固定ステップ制御と無段階制御の比較

最終的に、

  • S#:固定ステップ制御
  • S:無段階制御

の比較を行います。

Sモードの場合には、最終的に無段階変速によってエンジン回転数を一定にし、最高出力での加速を行います。

一方で、S#モードの固定ステップ制御では、エンジン出力の90%以上での加速を行っています。

つまり、無段階変速と固定ステップ制御の間に効率で90%以上の差があれば、固定ステップ制御のほうが、最終的に加速がよくなることになります。

これらを満たす条件として、例えば、CVT効率が、

  • 無段階制御時:81%
  • 固定ステップ制御時:90%以上

であったり、

  • 無段階制御時:72%
  • 固定ステップ制御時:80%以上

となるなど、CVTステップ制御のほうが加速性能が良くなると説明できるだけの、比較的現実的な値が得られます。

まとめ

ここまで、CVTのステップ制御について、加速や効率の面から紹介してきました。

CVTのメリットとして、確かにエンジンの最高出力点を維持することで、加速性能を最大化できるというのがあります。

その一方で、加速中にエンジン回転数を一定に固定するには、変速比の急激な変化が必要になり、

  • オイルポンプロスの増大
  • 摩擦損失増加
  • CVTベルトのスリップ

といった、別の問題が出てきます。

そこで、固定ステップ制御により、

  • CVT伝達効率の向上
  • エンジン最高出力近傍回転数の活用

を行い、システムとしての加速性能を最大化していることがわかります。

特に、エンジン最高出力近傍回転数の活用は、CVTの無段階制御だからできることになります。

固定ステップ制御によって、フィーリングをよくするというのもありますが、あくまでそれは結果として生まれたもの。

やはり、車の走行性能に直結する、奥の深いストーリーが見えてきました。

以上、CVTの固定ステップ制御と、加速性能、伝達効率の関係について、参考になれば幸いです。

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