ターボ車の発進加速性能の推定方法【ターボラグを考慮する方法】

みなさん、こんにちは!

ブリュの公式ブログ.comにお越しいただきまして、ありがとうございます。

今回は、当ブログで使用しているターボ車の発進加速性能の推定方法について紹介します。

ターボ車は必ずターボラグがあり、AT車のようにアイドリング状態からエンジンを立ち上げると同時に加速する場合、ターボラグが生じます。

カタログ掲載のエンジン性能曲線は、あくまでも定常状態における性能です。

NA車の場合には、相対比較としてエンジン性能曲線の比較は有効ですが、ターボ車の場合にはターボラグがある関係上、そのまま比較するのは実際と異なる検討結果をもたらします。

そこで、ターボ車のターボラグを、エンジン性能曲線相当に置き換えて、あたかもNA車のようなエンジン性能曲線を描くにはどうすればいいか?ということについて、当ブログでは一定の基準を設けています。

車種・排気量・エンジン形式・駆動方式に依らず、すべてに共通にの基準を設けることで、体感的な部分と一致する加速性能曲線を描きます。

この内容は、推定を行う上での当ブログの考え方を示しているものであり、近似的な結果しか得られません。

本来、エンジンの過渡的な特性変化を計算することは、専用ツールなども必要になり、非常に困難です。

しかし、難しいにしても、何らかの推定を行わなければ、性能の比較が行えません。

そこで、物理的、あるいはカタログ掲載情報から読み取れる情報をベースにして、ある一定基準を設けることで、相対的な比較を行えるようしています。

その検討を行った結果が、以下の通りとなりますので、参考にしてください。

※本当の意味での絶対的に厳密な比較は、メーカーしかできないでしょう。

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ターボラグ考慮の必要性

先に、ターボラグの考慮が必要か否かの状況の切り分けを行っておきます。

MT車の場合

MT車でタイムを競う場合、基本的にクラッチを切った状態で十分吹かした後、クラッチミートして一気に加速していきます。

つまりMT車の場合、クラッチが切れている状態の空吹かしで、エンジン・ターボともに十分に立ち上がっていると仮定できます。

そのため、タイムを競う場合には基本的にターボラグの考慮は必要ありません。

参考に、インプレッサWRX STI(GRB)のフル加速動画です。

発進のタイミングですでに5000rpm-6000rpm程度まで立ち上がっており、このため過給効果も最初から十分有効になっていることが確認できるでしょう。

一方で、日常走行のような場合、エンジン回転数の上昇とともに加速していきます。

この場合、ターボラグの考慮が必要になります。

例えばアイドリング状態で、アクセル操作なしで、エンストしないようにクラッチをゆっくりつないだとします。

この時、車は極低速(≒0km/h)で前進しますが、この状態でアクセル全開加速を考える場合、ターボラグは効いてきます。

AT車の場合

AT車の場合には、Dレンジに入れた後、トルクコンバーターでエンジンにより駆動力が伝達されます。

そして、アクセルONのタイミングで、トルコン、あるいはロックアップ機構を通してエンジン回転数と車速がともに上昇します。

つまり、ターボエンジンは、自分自身のターボの立ち上げと、車の加速の両方を担うことになります。

言い換えれば、ターボが十分に機能していない状況に置いてのエンジン特性が加速に影響しているので、ターボラグを考慮する必要性が出てきます。

参考に、私のレガシィ”DIT”の加速動画です。

先ほどのインプレッサWRX STI(GRB)と異なり、アイドリング状態(Dレンジ、ブレーキ作動、アクセルOFF)の状態から、ブレーキを離し、アクセルに踏みかえて一気に全開加速しています。

参考に、DCTのようにMT車と同等のトランスミッションの場合、

  • Nレンジでの空吹かし状態からのDレンジ入れ
  • ローンチコントロール

などによって、MT車同様、ターボラグを考慮しなくていい場面はあります。

例えば、A45 AMGの加速を見てみると、ローンチコントロールを使用して4000rpm発進を行っています。

こうしたローンチコントロールの有無、ターボラグ考慮の有無については、評価方法として柔軟に検討する必要があります。

例えば、

  • MT車
  • DCT車(ローンチコントロールあり)

の比較であれば、お互いに最高性能を評価するためにターボラグの考慮は不要でしょう。

逆に、

  • トルコンAT車(ローンチコントロールなし)
  • DCT車(ローンチコントロールあり)

の場合、DCT車のローンチコントロール機能を仮定(ターボラグの影響なし)とした場合、比較・評価の意味をなさなくなります。

※ローンチコントロールありのほうが圧倒的に有利な上に、一般道でローンチ機能を使用すること自体があり得ないため、性能比較の意味がないです。

この場合、どちらも通常発進(Dレンジ・アイドリングからのアクセル全開)を比較することで、ターボラグも含めて日常用途における走りのゆとりを比較することができます。

参考に、ローンチコントロールの有無で評価結果が変わる場合もあります。

メルセデスAMG A45SとA35の加速性能比較(ローンチコントロールあり)

メルセデスAMG A45SとA35の加速性能比較(ローンチコントロールなし)

トルクは吸気量に比例する

ターボ車の、ターボラグを考慮したエンジン性能曲線の検討方法を紹介します。

キーワードとしては、トルクは吸気量に比例する、ということができるでしょう。

スバルの場合

スバルの場合、フォレスターのFB25とインプレッサのFB20を比較してみます。

下の表のとおり、トルク・出力とも排気量の比率に近い数値となっています。

フォレスター2.5i
(FB25)
インプレッサ2.0i
(FB20)
比率
排気量 2.5L 2.0L 1.25
最高出力 136kW(184PS)
/5800rpm
113kW(154PS)
/6000rpm
1.20
最大トルク 239Nm(24.4kgf・m)
/4400rpm
196Nm(20.0kgf・m)
/4000rpm
1.22

トヨタの場合

トヨタの場合、レクサス IS350とIS250で比較してみましょう。

例としてレクサス ISを見てみると、スペック比率に関して推定通りの結果となっています。

IS350(2015年) IS250(2015年) 比率
排気量 3.5L 2.5L 1.40
最高出力 234kW(318PS)
/6400rpm
158kW(215PS)
/6400rpm
1.48
最大トルク 380Nm(38.7kgf・m)
/4800rpm
260Nm(26.5kgf・m)
/3800rpm
1.46

日産の場合

日産は、フーガ 370GTと250GTを比較してみます。

トルクは排気量の比率と同じになっています。

出力については、最高出力発生回転数が異なるため、比率がずれています。

フーガ370GT フーガ250GT 比率
排気量 3.7L 2.5L 1.48
最高出力 333kW(245PS)
/7000rpm
165kW(225PS)
/6400rpm
2.02
最大トルク 363Nm(37.0kgf・m)
/5200rpm
258Nm(26.3kgf・m)
/4800rpm
1.41

フーガの場合、最高出力の比率がずれていますが、これは以下のように理解できます。

出力は、トルク×回転数で計算されるので、最高出力発生回転数について注目すれば、

  • 370GT:7000rpm
  • 250GT:6400rpm

となり、1.09倍の差が生じています。

つまり、最高出力は、トルクと回転数の2つのパラメーターを含むので、最大出力の推定は容易ではないことです。

これは、高回転型エンジン(370GT)か低回転型エンジンか(250GT)の違いにもなってきます。

一方で、実質的な最大吸気量(=排気量)の比率が、回転数に依存せずトルクの比率とほぼ一致しています。

そのため、トルクは吸気量によって決まることを示している、いい例になると思います。

マツダの場合

マツダは、アテンザで比較してみましょう。

マツダの場合、2.5Lエンジンと2.0Lエンジンの最高出力発生回転数、最大トルク発生回転数が完全に同じです。

やはり排気量の比率とほぼ同じになっています。

アテンザ25S アテンザ20S 比率
排気量 2.5L 2.0L 1.25
最高出力 140kW(190PS)
/6000rpm
115kW(156PS)
/6000rpm
1.22
最大トルク 252Nm(25.7kgf・m)
/4000rpm
199Nm(20.3kgf・m)
/4000rpm
1.27

ターボラグの推定方法(ターボラグを考慮したエンジン性能曲線)

さて、ここからレガシィ”DIT”を例に、ターボ車のターボラグを考慮したエンジン性能曲線の考え方を紹介していきます。

レガシィ”DIT”のFA20″DIT”エンジンをエクセルに描いたものが下のグラフです。

一方で、ターボラグを考慮したエンジン性能曲線は、下のグラフのようになると推定できます。

ここからは、この検討内容を紹介します。

ターボ車のエンジン性能の推移

ターボ車の場合、過給効果が十分に得られていない場合には、自然吸気エンジン相当です。

例えば、2.0Lターボの車が性能的に4.0L相当を発揮するとしても、もともとの排気量は2.0L。

つまり、過給効果によって2.0Lから4.0L相当に立ち上がります。

言い換えれば、アイドリング時には2.0Lエンジンの性能、フル加速で十分エンジン回転数が上昇すれば、4.0L相当になります。

よって必要になるのが、

  • ターボ車のカタログ表記のエンジン性能曲線
  • NA状態でのエンジン性能曲線

です。

※NA状態のエンジン性能曲線については、似た型式のエンジンの同排気量の性能曲線などを流用しましょう。

基準回転数の設定

次に、

  • NA状態の性能
  • 立ち上がり状態
  • 本来のターボ車の性能

の3段階に分離するための基準回転数を設定します。

ここでは、私のレガシィ”DIT”におけるを動力性能に対し、カタログスペックに対応する比率で基準を定めていきます。

重要

当ブログではレガシィ”DIT”を基準にしていますが、もしターボ車にお乗りの方なら、ご自身の愛車の特性をそのまま基準にしてください。

ここで大事なのが、基準を決めたら、例外なくすべてに共通の基準を与えることです。

例えば、カタログに「新開発のシステムではターボラグの低減が行われ・・・」といった記載があっても気にしません。

ターボラグの低減効果は、基本的にカタログスペック上として現れてきます。

カタログスペック上に表現される例として、

  • より低回転から最大トルクを発生するようになった(過給性能の向上)
  • 最大トルクの値が低下した(過給性能依存度が低下)
  • スペックそのままに単に排気量がアップされた(元々のエンジン性能アップ)

などなど、何らかの変化があります。

なお、基準回転数は体感的な部分に頼らざるを得ないのは事実です。

そのため、小排気量、高出力のドッカン系のターボ車、例えば、

  • メルセデスAMG A45S
  • スバル WRX系
  • ホンダ シビックType R

みたいなスペックの車のほうがわかりやすいでしょう。

最近のダウンサイジングターボ車は過給がマイルドなので、ただ乗っているだけではターボ車としての区別すら難しいと思います。

そういった意味で、上記のような車は非常に貴重な存在です。

FA20″DIT”のスペックです。

■水平対向4気筒 2.0L 直噴ターボ”DIT”

  • 最高出力:221kW(300PS)/5600rpm
  • 最大トルク:400Nm(40.8kgf・m)/2000-4800rpm

レガシィ”DIT”に搭載されているFA20″DIT”の場合、最大トルク400Nmは、2000rpmで発揮することになっています。

そのため、基準回転数を2000rpmと設定します。

さて、停止状態でフル加速をしてみると、

  • 2500rpmまで:若干加速(反応が悪い)
  • 2500~4000rpm:一気に立ち上がり
  • 4000rpm以降:リニアに加速

といった形になりました。

ここで、上記の基準回転数を、比率ベースで考えます。

比率でみれば、基準回転数2000rpmに対して、

  • 1.25倍(2500rpm)まで:2.0L NA相当
  • 1.25倍(2500rpm)~2倍(4000rpm):急峻な立ち上がり
  • 2倍(4000rpm)以降:本体のフラットトルクの加速性能

となるでしょう。

つまり、ターボ車の加速性能の基準として、最大トルク発生回転数を基準回転数とし、1.25倍、2倍を区切りの基準に選ぶことができます。

排気量の補正

ターボ車は、ターボによって吸気量を増やし、トルクをアップさせています。

しかし、エンジンの排気量が大きければ、もともとの吸気量が多いので、この部分の補正が必要になります。

例えば、2.0Lと3.0Lのエンジンであれば、もともと1.5倍の吸気量の差があります。

そのため、過給も$\frac{1}{1.5}$倍で問題ありません。

ターボチャージャーの過給性能が、エンジンからの排気ガスの量に比例する場合、エンジン回転数に比例することになります。

そのため、基準回転数に対して、$\frac{2.0[L]}{3.0[L]}$倍の補正を行うことになります。

最大トルクの補正

トルクは吸気量に比例することを説明しましたが、最大トルクが異なるターボエンジンを比較する場合、この部分も補正が必要になります。

例えば、最大トルク400Nmのエンジンに対して300Nmのエンジンは吸気量が0.75倍で問題ありません。

排気量の換算と同様に、ターボチャージャーの過給性能が、エンジンからの排気ガスの量に比例する場合、エンジン回転数に比例することになります。

そのため、基準回転数に対して、$\frac{300[Nm]}{400[Nm]}$倍の補正が必要になります。

ターボ車のエンジン性能曲線の考え方

1速の時に使用する

ターボラグを考慮したエンジン性能曲線は、基本的に1速の時にのみ適用します。

ターボラグが影響するのは発進加速時のみなので、2速以降は本来のエンジン性能曲線(カタログ掲載のエンジン性能曲線)に従います。

※なお、上のグラフはリニアトロニックのS#(8速ステップ制御時)における代表的なギア比をもとに計算した簡易的なグラフです。

アクセル開度が小さい場合

発進加速においてアクセル開度が小さいときには、

  • ターボラグを考慮したエンジン性能曲線
  • 本来のエンジン性能曲線(カタログ掲載のエンジン性能曲線)

へと徐々に推移します。

例えば、FA20″DIT”において、2000rpm一定で発進加速を行った場合、時間とともに図に示す青の矢印のようなトルクの変化が生じます。

トルクが増加すると緑の矢印で示すように出力も増加し、加速力が変化します

ターボ車にお乗りの方は試してみてほしいのですが、発進加速時にアクセル開度一定にした場合、途中でスルスルスルっと車速が上昇しませんか?

これはトルクが変化している、つまり、ターボの立ち上がりそのものと言えます。

スバルの場合、CVTだからわかりやすいと思いますが、今度2000rpm一定になるようにアクセル操作してみてください。

途中から急に加速がよくるのが体感できると思います。

それをグラフで可視化したのが、上のグラフになるわけです。

スバルにおけるこの加速動作は、

  1. ターボの立ち上がりによるトルクの増加
  2. トルク増加によりエンジン回転数が上昇しようとする
  3. リニアトロニックをハイギアにしてエンジン回転数上昇を抑え込む
  4. 結果として車がスルスル加速する

といった現象といえます。

まとめ

ここまで、ターボ車の発進加速性能の推定方法について紹介してきました。

ターボ車にお乗りの皆さん、どうですか?

だいたい体感的な加速と合っているんじゃないかと思います。

最初にも書きましたが、ターボ車の過渡的な特性変化を完全に解析できるのはメーカーだけです。

その中でも、限りなく体感レベルで近い推定を行う方法として上記の検討を行いました。

そして、当ブログでは、上記の検討をもとに、クルマの性能評価記事を比較しています。

以上、参考になれば幸いです。

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