トヨタを代表するクラウンアスリート 3.5LとマークX 3.5。
トヨタのFRスポーツセダンの代表マークXと、クラウンとしての高級感とスポーツ性能を併せ持つクラウンアスリート。
スポーツセダンという共通点を持つこの2車種。
いろいろと似ているこの2車種の加速特性の違いを数値計算で検証していきましょう!
目次
想定するグレード
ともに3.5L車で比較します。
互いに最高の条件で比較できるように、最軽量モデルを選択。
その結果、選んだグレードが、
クラウンアスリート:3.5アスリートS
エンジン:V6 3.5L DOHC
最高出力:315PS/6400rpm
最大トルク:377Nm/4800rpm
トランスミッション:8AT
車両重量:1630kg
減速比
1速:4.596
2速:2.724
3速:1.863
4速:1.464
5速:1.231
6速:1.000
7速:0.824
8速:0.685
最終:3.133
マークX:350S
エンジン:V6 3.5L DOHC
最高出力:318PS/6400rpm
最大トルク:380Nm/4800rpm
トランスミッション:6AT
車両重量:1550kg
減速比
1速:3.520
2速:2.042
3速:1.400
4速:1.000
5速:0.716
6速:0.586
最終:3.769
スペック見えるキャラクター
常用時の加速特性は、数値計算を行わなくても、おおよそ見当が付きます。
アスリート3.5Lのエンジン性能曲線。
マークX 3.5Lのエンジン性能曲線。
まず、エンジン性能に関して、クラウンアスリートの方がトルクがフラットです。
なので、伸びやかな爽快な加速が期待できるでしょう。
また、1速のギア比が大きいことで強力な瞬発力が得られるほか、8速のギア比が小さいことで、高速走行時のエンジン回転数を下げることで、静かに、そして低燃費に走ることが可能になります。
一方、マークXはトルク曲線がいびつですが、エンジン本体のパワフル度で言えばクラウンより上です。
極端に言えば、マークXは、少々扱いにくくても、エンジンが最大限のパワーを発揮できるセッティングになっている。
つまり、よりスポーツエンジンなのはマークXといえます。
車重もマークXが80kg軽い分、さらに軽快な走りを可能にしています。
一長一短で優劣のつけがたい加速性能
しかし、クラウンとマークXの3.5Lモデル同士を比べると、厳密にどっちが早いのかを考えることは、カタログスペックだけではなかなか困難です。
車重が軽く、エンジンスペックに優れるのはマークX 3.5Lです。
一方、車重がありエンジンスペックも低くなるクラウン 3.5Lですが、トランスミッションは8速ATとなります。
刻み幅を小さくしただけの8速ATであれば話は別なのですが、クラウン 3.5Lの8速ATは、実用域においては6速AT相当の刻み幅とし、よりギア比の大きい1速と、よりギア比の小さい8速を追加することで、瞬発力と高速域でのエンジンの静粛性を実現しています。
したがって、多少車重やエンジンパワーで不利なクラウン 3.5Lも、1速の大きなギア比によって駆動力が増幅され、瞬発力がかなり大きいです。
これより、フル加速を続けて1870km/hに到達するのはどっちが早いかとなれば間違いなくマークX 3.5Lなのですが、0-100などの日常域でも実現可能な速度域においては、瞬発力やエンジンの立ち上がりも重要な指標となるため、簡単に答えを出すことが難しいです。
この記事では、数値計算を使って、0-100などの日常域において、クラウン 3.5LとマークX 3.5Lのどっちが早いのかを考えていきます。
クラウンアスリートのエンジン性能をプロット
先に、クラウン 3.5Lモデルのエンジン性能曲線をエクセルにプロットします。
エンジン性能曲線がこちらです。
このエンジン性能曲線から、次の代表点が読み取れます。
エンジン回転数 | トルク | 出力 |
1000rpm | 300Nm | |
2400rpm | 370Nm | |
4000rpm | 350Nm | |
4800rpm | 377Nm | |
6000rpm | 360Nm | |
6400rpm | 232kW |
これらのデータをもとに、トルク曲線を描きます。
トルク曲線において、代表点の間は直線近似を行います。
書いたトルク曲線に対して、
$$出力[kW]=2|pi×\frac{エンジン回転数}{60}×\frac{トルク}{1000}$$
より、出力曲線を作成します。
これによって描かれたクラウン 3.5Lモデルのエンジン性能曲線がこちらです。
マークX3.5Lのエンジン性能をプロット
マークXにおいても同様の方法でエンジン性能曲線を描きます。
こちらがマーク X 3.5Lモデルのエンジン性能曲線です。
代表点を次のように読み取りました。
エンジン回転数 | トルク | 出力 |
1000rpm | 250Nm | |
2000rpm | 350Nm | |
2500rpm | 350Nm | |
3700rpm | 330Nm | |
4800rpm | 380Nm | |
6000rpm | 370Nm | |
6400rpm | 234kW | |
6600rpm | 335Nm |
これによって描かれたマークX 3.5Lモデルのエンジン性能曲線がこちらです。
車速に対する出力特性の計算
車において、エンジン回転数、ギア比、タイヤサイズの情報があれば、エンジン回転数の横軸を車速に変換することができます。
具体的には、
$$車速[km/h]=\frac{タイヤ外径[mm]}{1000×1000}×\frac{エンジン回転数[rpm]}{ギア比}×60$$
となります。
これより、クラウンの車速に対する出力特性は以下のグラフになります。
同様に、マークXの車速に対する出力特性は以下のグラフになります。
これだけでは、まだ車重の差が考慮できていないので、最後に車重の差についての補正も行います。
加速度レベルのグラフに変換
ここで作成したクラウン 3.5LとマークX 3.5Lのグラフにおいては、まだ車重が考慮されていません。
よって、縦軸である出力の値を、それぞれの車重で割って加速度レベルのグラフに変換します。
ここでいう縦軸は、パワーウェイトレシオ[kg/PS]の逆数になります。
本来、パワーウェイトレシオは1PSが担当する車重のことなので、小さいほうが加速性能に優れます。
しかし、グラフで可視化する以上、大きいほうが加速性能に優れるグラフを描いたほうがより分かりやすいので、あえて逆数を用いました。
これによって、クラウン 3.5Lモデルの車速に対する加速度レベルのグラフは、次のグラフになります。
そして、マークX 3.5Lモデルの加速度レベルのグラフは次のようになります。
これで、クラウン 3.5LモデルとマークX 3.5Lモデルの加速性能比較における条件がそろったので、あとは比較するだけになりました。
クラウンとマークXの加速性能比較
最終的に一つのグラフにまとめたのが下のグラフです。
青がクラウン アスリート 3.5Lモデルの加速性能曲線、赤がマークX 3.5Lモデルの加速性能曲線になります。
このグラフからわかることを開設します。
クラウン 3.5LとマークX 3.5Lの加速性能比較において、発進から約60km/hまでは加速性能に大差がありません。
しかし、60km/hでアスリートはエンジンを回し切っているため、1速から2速にシフトアップして加速力が落ちます。
一方、マークXは60km/h以降も加速力が伸びて、約70km/hまで1速のまま回し続けて、加速力が上昇し続けます。
しかし、マークX 3.5Lモデルが2速にシフトアップした後は、アスリートの加速力が勝ります。
その状況が90km/hまでクラウン 3.5Lモデルの加速性能が有利な状況が続き、アスリートが3速にシフトアップした時に、加速力の優劣がマークXと入れ替わることになります。
3速シフトアップ後も同じで、140km/hまでクラウンがリードしてシフトアップし、その後150km/hまでマークXが勝ります。
あとは、160km/h付近の中間加速性能は、クラウン 3.5Lのほうが圧倒的に有利な速度域となっています。
加速性能比較から言えること
まず、0-60km/hの加速においてはマークXのほうが圧倒的に速いです。
加速度レベルがクラウンを上回っているほか、1速で変速なしに加速を行うので、変速によるタイムロスがありません。
これはグラフから明らかなことです。
では、肝心の0-100はどうでしょうか?
60km/h-90km/hの加速において、クラウン 3.5Lのほうが加速性能がわずかに上回っています。
このグラフを見る際の注意点は、あくまでも車の車速に対しての発揮しうる加速性能の比較を行うものであって、時間軸において比較しているものではないことです。
したがって、60km-90km/hでアスリートが加速力が勝るが、60km/hまでにマークX 3.5Lと開いた速度差を埋めるだけの加速性能があるかが問題となります。
そして、90km/h-100km/hはマークXが速いです。
これらを総合すると、0-100加速においてはマークX 3.5Lのほうが速いといえるでしょう。
加速性能において、0-60kmh、0-90km/hにおいてマークX 3.5Lの加速性能が上回るほか、変速回数が、
- クラウン 3.5L:2回
- マークX 3.5L :1回
となるので、変速に伴う加速のロスも、マークX 3.5Lモデルのほうが少ないです。
これは、総合判断すれば、マークX 3.5Lのほうが日常域における加速性能が優れているといえる根拠です。
まとめ
ここまで、クラウン 3.5LとマークX 3.5Lの加速性能を比較してきました。
基本的に、クラウン 3.5LとマークX 3.5Lの加速性能は、互いに得意な速度域があり、総合判断で優劣をつけるのはなかなか難しい部分があります。
しかし、0-100加速などの、実用域における動力性能は、マークX 3.5Lモデルのほうが優れているという結論を得ることができました。
この記事では、
- マークXの優れたエンジン出力と軽量なボディ
- クラウンの8速ATにおける1速の瞬発力の高さ
を比較しており、一長一短の関係にある両車種ですが、結果的にマークX 3.5Lのほうが優れているという結論を導けました。
ここまでの話をご理解いただけたのなら、
- マークXにクラウンの8速ATを搭載すれば最強なんじゃないの?
と感じるでしょう。
まさにその通りです。
その車がレクサス ISになります。
結局のところ、クラウン、マークX、そしてレクサスISと、似た車の多いトヨタですが、キャラクター訳はしっかりとできているようです。
マークXやレクサスISには、出力を出し来るセッティングのエンジンが採用されています。
トヨタのエンジンには、D4-Sという、ポート噴射と直噴を切り替える装置があり、この境目でトルクの谷ができています。
マークXやレクサスISはスポーツ志向が強いので、このトルクの谷が生まれてでも、最高出力と最大トルクを稼ぐセッティングとなっているわけです。
一方のクラウンでは、プレミアムカーとしてのフラットな加速性能を求めており、このトルクの谷を可能な限り均している。
その結果、最高出力・最大トルクともに、少し減少しているということが言えます。
追記:クラウンアスリート3.5Lモデルの性能曲線のおかしいところ
この記事を執筆するにあたり、クラウン 3.5Lモデルのエンジン性能曲線においておかしいぶぶんがあったので紹介します。
クラウンアスリート3.5Lのエンジン性能曲線を再掲します。
トヨタ発表のクラウン 3.5Lのエンジン性能曲線では、6500rpmで350Nmは確実にありますよね。
そして、6500rpmにおける出力は、最大出力を下回っているので、大きめに見積もっても232kWとなります。
トルクと出力の関係は、
$$出力[kW]=2\pi×\frac{エンジン回転数}{60}×\frac{トルク}{1000}$$
ですが、本当に6500rpmで350Nm出ているのなら、出力は238kWになります。
クラウン 3.5Lモデルの最高出力は232kWなので、話が合いません。
結局のところ、高回転域においてトルク曲線の値を盛っていることになります。
このあたりは、出力曲線をもとに補正を行い、本記事を執筆しています。
なお、最新モデルのクラウン 3.5Lモデルのエンジン性能曲線もチェックしてみました。
やはり6500rpmで350Nmは超えています。