日産と東京電力が、再生可能エネルギーの余剰電力で電気自動車を充電する実証実験に入りました。
電気自動車は、電気で走ることができるクリーンなクルマですが、
技術面では様々な問題を抱えています。
今回は、日産と東京電力の実証実験において「余剰電力で電気自動車を充電する」ということから、
電気自動車が普及したときの、電力系統への影響について考えてみました。
目次
注目した記事
産経新聞
東京電力ホールディングスと日産自動車は13日、電気自動車(EV)の充電機能を使って電力需給を調整する実証試験を始めたと発表した。天候によって発電量が変わる再生可能エネルギーの導入拡大で蓄電池への投資費用は膨らむ見込みで、EVを活用して負担軽減を目指す。
試験には、日産からバン型EVを貸与された東電社員30人と、小型EV「リーフ」を所有する日産社員15人の計45人が参加。充電する時間帯は天気予報を基に3~4時間ごとに指定し、参加者のスマートフォンのアプリに配信される。
太陽光など再生可能エネルギーの発電量が増えそうな指定の時間帯に、充電して出力抑制に貢献したEV利用者にはポイントを付与。充電1キロワット時あたりネット通販サイトで使える20~60円相当のポイントがもらえる仕組みだ。
来年1月末まで実施し、平日と休日の参加状況の違いや、ポイントの効果を調べる。日産の既存のEV向けアプリなどを使い、システム投資も抑えた。東電は来年度以降、出力不足時の放電に試験対象を広げる方針。EV普及が数万台規模に膨らめば、事業化を検討する。
自動車を活用した電力の需給調整は、中部電力もトヨタ自動車などと愛知県豊田市で実証している。
元の記事:https://www.sankei.com/economy/news/171213/ecn1712130047-n1.html
太陽光発電大量導入時における周波数調整問題
まず、この背景として、太陽光発電大量導入時の周波数調整問題について書いておきます。
まず、電力系統においては、常に需要と供給のバランス(=需給バランス)が常に一定でなければなりません。
これは、需給バランスが不均衡になると、電力系統での周波数が変動してしまうことななります。
これを式で表すと次のようになり、これは専門用語では「動揺方程式」と呼ばれます。
$
\frac{df}{dt}=P_{in}-P_{out}
$
ここで、$\frac{df}{dt}$は、周波数の微小変化、$P_{in}$は、発電所においてタービンに流入するエネルギーで、$P_{out}$は、発電機の出力となります。
ここで、式中の所量を図示すると、簡単な電力系統(発電機と白熱灯のモデル)においては次のような図になります。
ちょっと専門的な話になりますが、電気回路においては常に発電量と消費は完全にバランスされています。
電力系統では交流で伝送されますが、その場合にはベクトル図において入力と出力は常に同じです。
つまり、電気回路上では、発電量と需要は完全にパランスされています。
しかし、発電に必要とされるエネルギーまでバランスされていなければどうなるでしょうか?
上に書いた動揺方程式は、
発電機の出力は消費量と同じで$P_{out}$と表され、
タービンに入力されるエネルギー$P_{in}$が発電量$P_{out}$を上回ると、$\frac{dP}{dt}>0$となり、周波数は上昇する。
これを物理的に言い換えれば、タービンに流入したエネルギーにより発電がおこなわれ、
発電された量(=電力需要)との差分が発電機の回転エネルギーとして吸収され、周波数が上昇する。
と言えますね。
逆に、$P_{in}$が不足する場合、すなわち、発電量に対してタービンへの流入エネルギーが不足する場合を考えると、
タービンに流入するエネルギー$P_{in}$が発電量$P_{out}$を下回ると、$\frac{dP}{dt}<0$となり、周波数は低下する。
これを物理的に言い換えれば、タ-ビンに流入したエネルギーにより発電がおこなわれるが、
発電したい量(=電力需要)が上回っていた場合、発電機は自らの回転エネルギーを電力に変換する。
つまり、周波数は低下する。
と言うことができます。
ここで、需要と供給のバランスをとることで、周波数変動を抑える能力のことを、「周波数調整能力」といいます。
今後は、再生可能エネルギーが導入されると、この「周波数調整能力」が大きな意味を持ってくることになります。
再生可能エネルギーと周波数
再生可能エネルギーと周波数変動について書いてみます。
再生可能エネルギーの代表として、太陽光発電を例にしてみましょう。
細かい発電原理は省略しますが、太陽光発電は太陽光を電力に変えていることはすでにご存じかと思います。
つまり、太陽光がなければ発電は一切できないのです。
太陽光発電に雲がかかったらどうでしょう?
もう発電はできないですよね。
すると、先ほどの動揺方程式
$
\frac{df}{dt}=P_{in}-P_{out}
$
において、$P_{in}$が小さくなってしまい、周波数は減少します。
逆の例で、ゴールデンウィークなどで、多くの人が旅行に行き、家を不在にしていた時、もし快晴ならどうでしょう。
誰も使う人がいないのに、太陽光発電は発電し続けます。
すると、動揺方程式において、$P_{out}$が小さいのに$P_{in}$が大きくなることで周波数は上昇します。
ここで、$P_{in}=P_{out}$とすることで、$\frac{dP}{dt}$を0にする能力が周波数調整能力であり、
電力系統の安定化のために重要になってくるわけです。
これは、太陽光発電だけではなく、風力発電の場合でも同じですね。
必要な時に風が吹くとも限りませんし、不必要なときに風が吹きまくるときもあるでしょう。
再生可能エネルギーは、エコである分、需要とマッチしにくいのです。
※この写真は、北海道 宗谷岬ウィンドファームで撮影しました。
北海道に行ったらぜひ見てほしい壮大な景色でした。
周波数調整能力の高い発電設備と低い発電設備
今まで、周波数調整能力の高さが重要であることの説明をしてきました。
ここで、周波数調整能力を上げるための発電設備について説明します。
まずは、不足分を補うための周波数調整能力の高い設備について見ていきましょう。
周波数調整能力の高い代表格は水力発電です。
想像してみればわかると思いますが、水を止めれば発電は止まり、発電したいなら水を流せば発電できます。
これを物理的な面で見れば、水のエネルギー密度が高いことが理由となります。
エネルギー密度が高い、すなわち少しの変化で動揺方程式における$P_{in}$を調節できるため、周波数調整能力が高くなります。
その他、火力発電の周波数調整能力も高いようです。
※写真は、北海道電力 苫東厚真火力発電所にて
その他、蓄電池は周波数調整に役立ちます。
余った電力は蓄電池に充電し、不足時には放電すれば周波数調整が可能になります。
しかし、重大な欠点としては、蓄電池のコストが高すぎるほか、
電力系統を制御するレベルであれば、北海道電力で実証されていたのですが、テニスコート2面分の敷地が必要になります。
また、それだけ大きな蓄電池であっても、フル出力では半日で蓄電池がカラになるようです。
したがって、本格的な周波数調整には向かない設備になります。
また、揚水発電も周波数調整能力があります。
揚水発電は、水力発電の逆向きで、モーターを回して水をくみ上げます。
電気はためることはできませんが、電力を水の位置エネルギーとして蓄えることになります。
この設備も蓄電池と同様、余った電力は水の位置エネルギーとして蓄え、
不足した場合は水力発電で発電を行うことにより、周波数調整能力は非常に高いのですが、
水力発電所の建設場所が限られており、自然破壊の影響も懸念されているために、なかなか数が増やせないのが現状です。
逆に、一番周波数調整能力の低いのが、原子力発電です。
実際に電力会社の方と話した時のことですが、周波数調整能力としては、フル稼働状態の原子力発電は、半日で出力を半分に減らせる程度であるとのことです。
また、原子力発電は核分裂時に発生する熱を利用して発電するのですが、
出力を絞ったとしても核分裂自体は時間とともに進行していくため、常にフル出力で運転し続けるほうが効率や経済面で有利なようです。
そこで、新たな周波数調整能力として、電気自動車が注目されることになりました。
電気自動車には、蓄電池を搭載しているからです。
電気自動車と周波数調整能力
電気自動車と周波数能力の関係について書いていきます。
電気自動車の蓄電池によって、余った電力(=余剰電力)を吸収することができます。
吸収した電力は、そのまま電気自動車の動力として利用することができます。
これにより、再生可能エネルギーの発電量を制限することなく、すべてを有効利用することができます。
これだけ見れば、電気自動車が普及すればいいと思うのですが・・・重大な欠点ががるのです。
では、次に欠点を考えていきます。
電気自動車に乗っている方なら利用したこともあると思いますが、「急速充電設備」ってご存知ですか?
急速充電設備は、短時間に大量の電力を消費します。
つまり、動揺方程式における$P_{out}$が突発的に増えるわけです。
今は電気自動車の数が少ないから大丈夫ですが、今後電気自動車が普及してきて、急速充電設備の利用が進むと、
この突発的な電力消費が増えてくることで動揺方程式の$P_{out}$が急変することになり、再び周波数調整が難しくなります。
再生可能エネルギー大量導入で、動揺方程式中の$P_{in}$まで変化すると、もう大変です。
したがって、電気自動車の普及には、コスト面の課題もありますが、電力系統を保護する面でも課題が残されているのです。
まとめ
電気自動車は、再生可能エネルギー大量導入された状況で普及すれば、再生可能エネルギーによって発電された余剰電力吸収する、エコな乗り物だといえます。
しかし、電気自動車は、急速充電設備によって、電力系統を崩壊させる面も持っています。
これらの問題を解決してこそ、電気自動車の普及が進んでいくといえます。
水素で動くトヨタ MIRAIが本当にエコカーなのでしょうか?
クリーンなエネルギーの車ではありますが、水素の製造方法までを考えると、まだまだ課題がありそうです。
スバルの大泉工場で太陽光発電が導入されるようです。
自家消費をするということで、より環境にやさしい工場へと発展を続けています。