スカイライン V37に、400Rが登場しました。
かつて世界最速のハイブリッドと称されたスカイライン ハイブリッドと、スカイライン歴代最高出力の400R。
どちらがどのように速いのかについて、考察を行いました。
ターボモデル同士の比較、つまりスカイライン 400Rと通常モデルのGT V6 ツインターボの加速性能を比較は下記の記事をご覧ください。
目次
先に結論を・・・
この記事の内容は長いので、先に結論を書いておきます。
スカイライン ハイブリッド
発進時の瞬発力に優れています。
ストップアンドゴーの多い市街地での動力性能に関しては、400Rを上回ります。
また、絶対的な加速性能は400Rが優れますが、実用域における中間加速などにおいては、400Rを上回る速度域もあるので、一概に動力性能で劣るとも言えません。
400R
高速域で伸びのあるエンジン性能。といえます。
逆に言えば、公道では性能を十分に発揮できません。
速度が上がるほど真価を発揮するエンジンといえます。
では、この答えが出るまでの過程について、紹介していきます。
スカイライン ハイブリッドと400Rのスペック比較
まずは、比較対象となるV37スカイライン ハイブリッドと400Rのスペックについて紹介します。
スカイライン ハイブリッド
V型エンジン6気筒 3.5L ハイブリッド
エンジン最高出力:225kW(306PS)/6800rpm
エンジン最大トルク:350Nm(35.7kgf・m)/5000rpm
モーター最高出力:50kW(68PS)
モーター最大トルク:290Nm(29.6kgf・m)
システム出力:268kW(364PS)
トランスミッション:7速AT
1速:4.783
2速:3.102
3速:1.984
4速:1.371
5速:1.000
6速:0.870
7速:0.775
後退:3.858
最終減速比:2.937
駆動方式:FR or 4WD
400R
V型エンジン6気筒 3.0L ツインターボ
最高出力:298kW(405PS)/6400rpm
最大トルク:475Nm(48.4kgf・m)/1600-5200rpm
駆動方式:FR
トランスミッション:7速AT
1速:4.783
2速:3.102
3速:1.984
4速:1.371
5速:1.000
6速:0.870
7速:0.775
後退:3.858
最終減速比:3.133
駆動方式:FR
スカイライン ハイブリッドの太いトルク
このスペックを見比べたときに感じるのが、トルクと出力の差です。
スカイライン ハイブリッドの場合には、ベースのエンジンがV6 3.5Lと排気量の大きいエンジンであり、モーターアシストも介入します。
これにより、エンジン単体の最大トルク 350Nmに加え、モータートルク290Nmが加算されます。
モータートルクは2.5~3.0Lクラスのトルクとなっています。
したがって、スカイライン ハイブリッドの性能評価のカギは、トルクの数値にあります。
ハイブリッド車のシステム最大トルクは、エンジントルクとモータートルクの単純和にはなりません。
これは、エンジンとモーターの最大トルク発生回転数が異なるためです。
いかに太いトルクを発揮するかについて注目しながら計算を行います。
400Rの最高出力は400馬力越え
400Rに関しては、最高出力が400馬力を超えています。
スカイライン ハイブリッドのシステム最高出力は364馬力なので、最高出力の差に関しては歴然としています。
以前に書いた、車の加速性能は出力で決まるという記事を読んでいただければ、単純に出力の差分だけ400Rが加速が良いことがわかるでしょう。
しかし、排気量がスカイラインハイブリッドの3.5Lエンジンに対して、400Rは排気量が小さい3.0Lエンジンであることに加え、ツインターボエンジンによるターボラグがあります。
したがって、400Rの性能評価のカギは、最高出力に到達するまでの過程、つまり、どれだけ早く0.5Lという排気量の差と、ツインターボエンジンのターボラグというネガティブな要素を通過するのか、その上で、スカイライン ハイブリッドのモーターアシストに勝る動力性能を発揮するのかという点に焦点が当たります。
最終的には数値計算でばっちり答えを出しますが、本記事の着眼点が以上のような点であることを念頭におけば、より内容を理解していただけるのではないかと思います。
スカイライン ハイブリッドと400Rのエンジン性能曲線
では、カタログ情報から性能評価に必要となる情報を取得します。
ひとまず、スカイライン ハイブリッドと400Rのエンジン性能曲線について、エクセルにプロットします。
スカイライン ハイブリッド
まずは、スカイライン ハイブリッドのV6 3.5Lエンジンについて見ていきます。
エンジン性能曲線は、下の図のようになっています。
代表点として、次のものを選びました。
回転数 | トルク | 出力 | 備考 |
1000rpm | 270Nm | 28.3kW | — |
— | 線形 | — | — |
4000rpm | 310.4Nm | 130kW | — |
— | 線形 | — | — |
5000rpm | 350Nm | 183.3kW | カタログスペック |
— | 線形 | — | — |
6000rpm | 334.2Nm | 210kW | — |
— | 線形 | — | — |
6800rpm | 316Nm | 225kW | カタログスペック |
— | 線形 | — | — |
7200rpm | 165.9Nm | 220kW | — |
これにより、次のエンジン性能曲線をプロットできました。
400R
次に、400Rのエンジン性能曲線をプロットしていきます。
400Rのエンジン性能曲線は、次のようなものです。
400Rの場合には、次のような代表点を選択しました。
回転数 | トルク | 出力 | 備考 |
1000 | 350Nm | 33.7kW | — |
— | 線形 | — | — |
1600rpm | 475Nm | 79.6kW | カタログスペック |
— | 一定 | — | カタログスペック |
5200rpm | 475Nm | 258.7kW | カタログスペック |
— | — | 線形 | — |
6400rpm | 444.6Nm | 298kW | カタログスペック |
— | — | 線形 | — |
6500rpm | 423.1Nm | 288kW | カタログスペック |
これにより、次のエンジン性能曲線をプロットできました。
スカイライン ハイブリッドのシステム出力曲線の導出
カタログ掲載されていない情報は、他の車のデーターを参考にしてグラフの作成を行います。
以前にスカイライン ハイブリッドの加速性能の可視化を行ったのですが、まったく同じフローで可視化を行っています。
根拠など考察の過程については、下記の記事をご覧ください。
ここでは、電気自動車である日産 リーフのモータースペックをベースにした検討を行います。
日産 リーフのモータースペックは、次のようになっています。
最高出力:110kW(150PS)/3283-9795rpm
最大トルク:320Nm(32.6kgf・m)/0-3283rpm
このスペックからわかることは、
- 停止状態の0rpmから一定の最大トルクを発揮し、
- 最高出力の回転数3283rpmに達したときにトルクが減少し始め、
- 最高出力一定のまま9795rpmまで回る。
ということがわかります。
したがって、スカイラインハイブリッドのモーターも、
- 1.停止状態の0rpmから最大トルク290Nmの一定トルクを発揮し、
- 2.最高出力の50kWに達する時にトルクが減少し始め、
- 3.最高出力で一定のまま、高回転域になる。
ことがわかります。
ここで追加して検討すべき事項は、システム最高出力268kWととの整合性です。
上で考えたモーターの性能曲線では、最高出力の50kWを発揮し続けることになり、エンジンの最高出力である225kWと合わせると、システム最高出力が275kWになります。
メーカー発表ではシステム最高出力が268kWなので、モーターの出力はどこかで下落し始めます。
この点については、以下のような検討を行いました。
- エンジンとの合算時にシステム最高出力を超えた部分については、システム最高出力を超えないように、モーターの出力が減少する。
- 減少に転じた後は、線形にモーター出力が減少する。
これらの前提条件により、スカイライン ハイブリッドのモーター性能曲線は、以下の様になりました。
スカイライン ハイブリッドは直列型のハイブリッドシステム
スカイライン ハイブリッドのハイブリッドシステムは直列型と言われるものです。
エンジンとモーターは同軸上にあり、エンジン直後とモーター直後にクラッチがあり、動力を切り離すシステムとなっています。
ハイブリッドシステムの制御自体は複雑ではありますが、フル加速時にはエンジンとモーターがともにフル出力を発揮することになるので、システム性能曲線を考えることができます。
また、エンジンとモーターが同軸上にあるという構造上、エンジン回転数とモーター回転数は同じになるので、性能曲線の単純な合算が可能になります。
スカイライン ハイブリッドのシステム性能曲線
ここまでの考察をもとに作成したスカイラインハイブリッドのシステム性能曲線が下の図です。
この図においては、
- エンジン性能における225kW/350Nm
- モーター性能における50kW/290Nm
- システム最高出力268kW
これらの条件をすべて満たすグラフとなっています。
400Rのターボラグを補正したエンジン性能曲線
ターボ車において、エンジン性能曲線通りの性能を発揮するのは、ターボが十分に動作している場合のみです。
この節については、以前にアップしている記事「V37スカイライン GT V6ツインターボと400Rの比較と加速性能評価」と同じ検討内容になります。
以前に上記の記事をご覧いただいている方には、ほぼ同じ内容になりますので、次の節まで軽く流し読みしていただいてもいいかもしれません。
停車中はターボが作動していない
ターボ車は、停車中においてはターボが十分に機能していないため、実質的には自然吸気エンジンと同じ特性となります。
つまり、400Rの場合にも、停車中は3.0Lクラスの性能、加速中にターボが立ち上がり、400馬力を発揮するエンジンの本来の性能へと、徐々に推移しながら加速していくことになります。
したがって、アクセルを踏み込んだ瞬間には勢い良く加速はせず、ワンテンポ遅れてパワーが出る、ターボラグが存在します。
エンジン性能曲線にはターボラグの要素は含まれていないので、1速において発進加速性能を議論する場合にはターボラグまでを補正しなければ、適切な比較検討が行えません。
以前、メルセデスAMG A45の加速性能の検討を行った際に使った方法で、ターボラグの補正を行います。
これは私自身が乗っているレガシィ”DIT”における経験則を基準にすることで補正を行います。
レガシィに搭載されているFA20″DIT”エンジンは、次のスペックとなっています。
水平対向4気筒 2.0L ターボ
最高出力:221kW(300PS)/5600rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgf・m)/2000-4800rpm
数値上においては2000rpmで400Nmとなっていますが、実際のところ2500rpmまでは加速は鈍く、2500rpm-4000rpmで非線形に立ち上がり、4000rpm以降は自然に伸びていくという挙動になります。
したがって、2500rpmでターボが立ち上がり始め、4000rpmで十分にターボが動作しているとすれば、2000rpmという回転数に対してそれぞれ1.25倍、2倍のズレがあることになります。
これを基準に、スカイラインにも当てはめてみましょう。
400Rの場合には、
V型エンジン6気筒 3.0L ツインターボ
最高出力:298kW(405PS)/6400rpm
最大トルク:475Nm(48.4kgf・m)/1600-5200rpm
となっています。
したがって、基準となる回転数は1600rpmです。
次にトルクの値で補正を行います。
レガシィが400Nmに対し400Rは475Nmです。
トルクが吸気量に依存することを考えると、基準回転数に$\frac{475}{400}$を掛ける必要があり、
$$1600×\frac{475}{400}=1900rpm$$
となります。
次に、排気量の差で補正を行います。
排気量に関しては、レガシィの2.0Lとスカイラインの3.0Lで比率を取り、基準回転数を次のように変化させます。
$$1900×\frac{2.0}{3.0}=1267rpm$$
この数値に、先ほどの1.25倍、2倍をすることにより、次の結果が得られます。
ターボの効きはじめ:$1267×1.25=1584rpm$
ターボが完全に動作:$1267×2=2534rpm$
そして、ターボが効くまでのエンジン性能は、通常のV6 3.0L自然吸気エンジンと等しくなります。
現時点でV6 3.0Lエンジンが見当たら無かったので、スカイライン ハイブリッドの3.5Lエンジンの特性で置き換えました。
スカイライン ハイブリッドの3.5Lエンジンは、排気量が3.5Lながら最高出力は225kW、最大トルクは350Nmと、おおよそ3.0L車と似たスペックになっているので、大きなずれは生じないでしょう。
さて、ターボの効き始める回転数とターボが完全に動作する回転数の間はトルクの差を直線で結び、それに応じて出力特性を2次関数的に増加させます。
一定トルク、線形な出力はリニアな加速を感じさせるので、ターボが立ち上がる瞬間の非線形な加速感も、このグラフでうまくあらわされることになります。
400Rのターボラグを補正したエンジン性能曲線
では、上記の方法を用いてターボラグの補正を行ったエンジン性能曲線について紹介します。
トルクと出力の急峻な立ち上がりが、ターボラグの状況をよく表しています。
なお、このグラフに関しては、発進加速時の1速ギアでのみ有効となるグラフです。
あくまでもターボラグを考慮しているグラフであり、フル加速時において2速以降はターボは十分作動している状態になります。
したがって、2速以降は本来の400Rのエンジン性能曲線を用います。
車速に対する馬力の特性の計算と加速性能評価
では、パワートレインの素性に関しての評価を行います。
この評価においては、トランスミッションを含めたパワートレインのセッティングから、車の設計方針を考察します。
タイヤサイズは400Rに合わせるために、245/40R19で揃えました。
スカイライン ハイブリッドの加速性能
スカイラインハイブリッドの加速性能は、下のようなグラフになりました。
横軸が車速[km/h]、縦軸が出力[kW]です。
このグラフを見てまずわかることが、加速性能に関しては180km/h程度までしか考えられていないということです。
上記のグラフは車速に対して発揮する出力の変化を表しているのですが、出力が大きいほど加速が良いことになります。
したがって、その車速において出力が最大となるようなギアを選べば、車として発揮できる最高の加速性能を発揮することになります。
上記の加速性能のグラフにおいては、3速に注目してみると、3速でレブリミットまで回すよりも、4速に早めにシフトアップしたほうが出力が大きくなる部分があります。
4速、5速、6速についても同じです。
1速、2速、3速のつながりの良さを見る限り、本当の出足の良さ、スカイラインハイブリッドの真価があるのはおおよそ180km/h以下の領域になるということです。、
これは、4速以上については加速のつながりというよりも、巡航時に最適な回転数を選択できるギア設定になっていると考えられます。
つまり、高速域におけるフル加速性能よりも、日常域における低燃費性や静粛性に振ったセッティングです。
日常域とはいっても、180km/h以下ではフルパワーで加速できるセッティングになっているので十分とは言えます。
しかし、このあたりについてはスポーツセダンという性格もあり、所有する喜びにもかかわってくる部分ではないでしょうか?
スカイライン ハイブリッドは、本当の意味での高速域の伸びを重要視しているモデルではないことが、特徴としてわかります。
400Rの加速性能
次に、400Rの加速性能について見てみます。
400Rはスカイライン ハイブリッドに対して最終減速比でローギア設定なこと、およびレブリミットの低さによって、ギア比から計算される理論上最高速度が低くなっています。
※実際、理論上の最高出力は下り坂が延々と続き、エンジン出力に関係なく無限に加速を続けた場合の機械的に耐えうる最高速度という意味なので、ほぼ意味のない指標です。
通常は、機械的な最高速度よりもエンジン出力面での最高速度の方がより重要な指標です。
この400Rの加速性能曲線からわかることは、ローギア設定にすることで一気に最高出力まで到達させていることです。
したがって、エンジンパワーをフルに発揮して加速していくセッティングになっていることがわかります。
逆に、変速時の変速ショックはかなり大きいものになることも予想できます。
例えば、1速からと2速に変速したときの出力差を見てみると、スカイラインハイブリッドよりも明らかに大きいです。
出力の変動は加速力の変動となるので、ノックするようなショックに感じます。
400馬力を超える最高出力に加え、大きな変速ショックは、実際の加速以上の加速感を感じるでしょう。
通常、変速ショックはネガティブな要因としてとらえられますが、スカイラインがスポーツセダンという位置づけであるのならば、車のキャラクターとっしての乗り味として前面にアピールすることができるでしょう。
加速性能の比較
グラフを重ね合わせて、加速性能の比較を行います。
変速中における出力の単純平均を計算すれば、次の数値となりました。
ハイブリッド:247.7kW(336.8PS)
400R:260.2kW(353.8kW)
このように、全開加速を続けた場合の単純なフル加速性能では400Rの方が優れています。
実用面で考えると、局所的な速度域を見れば、スカイライン ハイブリッドが優れている部分もあるので、一概にどちらが速いというのはなかなか難しい部分ではあります。
例えば、車速が60km/h付近であれば、スカイライン ハイブリッドの方が加速する瞬間の瞬発力は優れています。
では、次にごく低速域における動力性能を見てみましょう。
下のグラフは、50km/hまでを抜き出したグラフです。
発進から20km/h程度まではハイブリッドの加速性能が上回っています。
つまり、出足に関してはスカイライン ハイブリッドの方が優れています。
日常においては、信号発進などでの力強さについては、スカイライン ハイブリッドの方が優れています。
また、スカイライン ハイブリッドの方が最終減速比がハイギアになっているので、エンジンの回転数が低くなり、多少燃費もいいでしょう。
よって、実用面を考えるなら、スカイライン ハイブリッドの方が優れています。
まとめ
ここまでV37スカイライン ハイブリッドと400Rの比較と加速性能評価について紹介してきました。
・スカイライン ハイブリッドは実用域での動力性能重視
・フル加速性能は400Rが優れる
・400Rは変速ショックが大きい
という部分がポイントでしょう。
事実上のV37スカイラインの最上級モデルとして双璧をなしているスカイライン ハイブリッドと400R。
日常用途におけるバランスの取れた動力性能であるスカイライン ハイブリッドに対し、400Rの本当の性能は高速域になるほど魅力が増します。
400Rは歴代最高スペックとしての所有する喜びとしての価値の方が大きいのかもしれませんね。
低速トルクの太い車、つまり低回転で馬力の大きい車ほど日常で扱いやすいです。
一方、最高出力の高い車ほど、高回転での伸びや最高速においての性能が圧倒的に優れています。
これは、V6 ターボモデル同士、400RとGT V6ターボにおいても顕著ですので、参考にしてください。
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