フルモデルチェンジで、まさかのターボモデルであるXTが廃止されたフォレスター。
代わりに登場したのが、マイルドハイブリッドのe-BOXERモデル。
フォレスターXTは280馬力を誇るスポーツモデルでしたが、e-BOXERは日常での扱いやすさを意識して設計されています。
e-BOXERの加速性能の可視化と、マイルドハイブリッドのメリット。
その答えは、エンジン性能曲線に隠されていました。
フォレスターXTに対する動力性能の違いについても考察します。
目次
フルモデルチェンジでターボモデルが廃止!
まさかの話だったのですが、フルモデルチェンジでフォレスターからターボモデルが消滅しました。
新世代BOXERエンジンのFA20″DIT”が搭載されており、最高出力は280馬力に達していました。
このブリュの公式ブログでも取り上げており、レガシィのFA20″DIT”が00馬力に対して、なんでフォレスターは280馬力なんだろう?という部分を性能曲線から解説しました。
280馬力に出力ダウンしていた理由は、瞬発力を上げるためで、クロカン用途を意識した設計になっていることと、リニアトロニックの400Nmというトルクの上限のために、トルクを絞った結果、最高出力が280馬力に抑えられたことを書きました。
フォレスター(SJ型)のターボモデルでは、FA20″DIT”が採用されていますが、レガシィ等の300馬力とは違い、フォレスターでは最高出力は280馬力に抑えられています。
この理由について、レガシィ等とは違い、リニアトロニック前に1.129の減速が入っていることをベースに、リニアトロニックの許容トルクから説明をしています。
今回、フォレスターからターボモデルが廃止され、代わりにe-BOXERモデルが登場し、スバルファンからは悲鳴が上がっています。
でも、性能曲線を眺めていると、このe-BOXERには、表面的には現れてこない、深い深い意味がありました。
フォレスターe-BOXERの性能
まずは、フォレスターe-BOXERの性能を見ていきます。
エンジン
水平対向4気筒 2.0L DOHC (FB20型エンジン)
最高出力:107kW(145PS)/6000rpm
最大トルク:188Nm(19.2kgf・m)/4000rpm
モーター
最高出力:10kW(13.6PS)
最大トルク:65Nm(6.6kgf・m)
ここで、注目するのがモーターの出力の小ささ。
モーターがメインのハイブリッドシステムではなく、エンジンをアシストするのが目的のようです。
エンジン性能曲線を描く
今回のフォレスターe-BOXERには、FB20型エンジンが搭載されているのですが、エンジン性能曲線をスバルが公開していません。
したがって、完全なグラフを描くことは難しいのですが、インプレッサに搭載されているFB20型エンジンの性能曲線を見つけました。
下の図が、インプレッサのFB20型エンジンの性能曲線です。
インプレッサの場合には、カタログ上のエンジン性能が次のようになっています。
最高出力:113kW(154PS)/6000rpm
最大トルク:196Nm(20.0kgf・m)/4000rpm
エンジン性能曲線の基本的な値を、このインプレッサのFB20型エンジン性能曲線から得て、
最高出力と最大トルクの部分だけを性能曲線上でフォレスターe-BOXERの値に補正します。
具体的には、インプレッサのエンジン性能曲線から次の情報を読み取りました。
20kW/1500rpm
↓
出力が線形
↓
188Nm/4000rpm(フォレスターe-BOXERの値)
↓
トルクが線形
↓
180Nm/5200rpm
↓
トルクが線形
↓
107kW/6000rpm(フォレスターe-BOXERの値)
↓
106kW/6100rpm(※性能曲線上で出力が若干ダウンしている。)
また、1000~1500rpmでは、出力が線形であると仮定しました。
その結果、フォレスターe-BOXERのFB20型エンジンとして、次のエンジン性能曲線が得られました。
モーターの性能曲線
モーターの性能曲線については、以前にスカイライン350GT HYBRIDの加速性能を評価した記事で考えました。
スカイライン ハイブリッドの加速性能評価において、モータ性能曲線は日産リーフの性能曲線より推定を行いました。
本記事においても推定方法の概要は説明しますが、詳細な推定方法については、スカイライン ハイブリッドの加速性能評価 本文中で解説をしております。
ぜひご覧ください。
モーターの性能曲線は、日産リーフの性能を参考にしています。
日産リーフのモーター性能は次のようなものになっています。
最高出力:110kW(150PS)/3283-9795rpm
最大トルク:320Nm(32.6kgf・m)/0-3283rpm
したがって、モーター性能としては、0rpmから最大トルクを発揮し、トルクが一定である。
トルクは最高出力に達した回転数から減少し始める。
トルクの減少具合は、最高出力一定の条件になるように、反比例の形で減少していく。
したがって、フォレスターe-BOXERのモーター性能曲線は、0rpmから65Nmを発揮し、最高出力が10kWになった時点からトルクが反比例に減少するとします。
その結果得られたフォレスターe-BOXERのモーターの性能曲線が次のものになります。
フォレスターe-BOXERのエンジンとモーターの回転数の関係
最近はスバルもブラックボックス化が進んできていて、エンジンとモーターの回転数の関係性が不明確です。
エンジン回転数=モーター回転数であれば、単純な性能曲線の和になるのですが、モーター側にリダクションギアがあった場合には、性能曲線の合算時にトルクと回転数に補正が必要になります。
少なくとも、フォレスターe-BOXERのモーターはリニアトロニックの入力側に直結しているようなので、モーターにリダクションギアはないようです。
次に、エンジン側にリダクションがあるかどうかが完全に不明です。
しかし、リニアトロニックのギア比が、フォレスターe-BOXERとインプレッサが同じ3.600~0.512であるために、ターボモデルであったような特別なリダクションなどはないようです。
写真で見る限り、トルクコンバーターの後にリニアトロニックがあるため、恐らくリダクションはないものとするのが妥当でしょう。
したがって、先ほど作成した、エンジン性能曲線とモーター性能曲線の単純な和が、フォレスターe-BOXERのシステム性能曲線になるわけです。
エンジン性能曲線
モーター性能曲線
この図から、ピンときた方はいますか・・・?
フォレスターe-BOXERのフラットなトルク
エンジン性能とモーター性能の和を計算すると、フォレスターe-BOXERのシステム性能曲線は次のようなものになりました。
なんと、1500rpmから6000rpmまでトルクがフラットです。
フラットなトルクのクルマはクセがなく乗りやすいというのが一般的な見解です。
フォレスターe-BOXERは、1500rpmから6000rpmまで、200Nm前後のフラットなトルクを生み出すことで、扱いやすいクルマとなっています。
初めのほうで、「モーターはエンジンの補助に使われる。」と書きましたが、エンジン性能曲線で見れば図の塗りつぶした三角形の領域のトルクを補うことになります。
スバルのハイブリッドシステムは、エンジン主体で走行し、エンジンの不得意な低回転部分のトルクをモーターで補い、全域でフラットなトルクのパワートレインに仕上げているということができますね。
参考に、以前計算したスカイライン350GT HYBRIDのシステム性能曲線を紹介します。
トルクの概形が、フォレスターe-BOXERとは全く異なることがわかります。
フォレスターe-BOXERとXTのトルクを比較する
フォレスターXTのFA20″DIT”エンジンのエンジン性能曲線は、次のものでした。
2000-5600rpmという広い回転域で350Nmというトルクを発揮しています。
しかし、この性能曲線の数値は、ターボが十分に作動している状態でのグラフです。
アイドリング時には、ターボはほとんど意味を成しません。
そこで、発進時にはターボラグがあり、実際にはフラットなトルクが発揮されていないのが実情です。
しかし、フォレスターe-BOXERなら、モーターによるトルクのために、低回転からグラフ通りのフラットなトルクが発揮されています。
モーターは、電流さえ流れればトルクが生まれるため、ターボ車のようなタイムラグは発生しません。
アクセルを踏み込んだ時の絶対的なパワーを求めているのがフォレスターXT。
日常での扱いやすさを重要視したものがフォレスターe-BOXERといえます。
ターボラグの影響については、メルセデスAMG A45の加速性能評価記事をご覧いただくと分かりやすいと思います。
2.0Lターボで381馬力を発揮する車で、排気量に対して最高出力が高すぎます。
フル加速における加速の伸びは相当なものがあるものの、当然ながらターボラグもかなり大きくなるので、比較する対象としては分かりやすい例と言えるでしょう。
まとめ
ここまで、フォレスターe-BOXERの加速性能についての評価を行いました。
フォレスターe-BOXERのエンジン性能曲線とモーター性能曲線から、システムでの性能曲線を考え、1500rpmから6000rpmでフラットなトルクが発揮されていることを紹介しました。
スバルのハイブリッドシステムでは、エンジン主体で走行し、エンジンの不得意な低回転部分でモーターがアシストを行うシステムになっています。
モーターアシストによって、フォレスターe-BOXERでは、実用域での扱いやすさを手にしています。
なお、SK型フォレスターで加速の伸びを求めるなら2.5Lモデルをお勧めします。
フォレスターe-BOXERはエンジン最高出力が145馬力、モーター最高出力が13.6馬力であり、システム出力としては最大でも158.3馬力になります。
FB25型エンジンを搭載したガソリンモデルのフォレスターの最高出力は184馬力のため、加速の伸びで勝負になれば2.5Lモデルのほうが、馬力の差分だけ速いです。
フォレスター Advanceに試乗しました。
性能評価の内容と試乗時に感じたこと、及び燃費を総合的にまとめると、スバルがフォレスター Advanceをハイブリッド車と称さない理由がわかりました。
フォレスター Advanceの試乗記事にすべてを記載していますので、あわせてご覧ください。
→フォレスター Advance 試乗の感想とスバルがハイブリッドと称さない理由
2つの記事の内容をまとめると、フォレスター Advanceは、システム全体のトルクをフラットにし、特に高速道路の巡航時における静粛性や低燃費性を重視していることがわかります。