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今回は、新型WRX S4についてです。
新開発のFA24″DIT”エンジンは、300馬力越えのエンジンが期待されていましたが、結果は275馬力。
以前に、新型レガシィで2.4L DITも搭載における課題について紹介していましたが、おそらくリニアトロニックの許容トルクの関係で、スペックダウンしたものとみられます。
ただし、スペックダウンはこれは同時に日常において乗りやすいセッティングになったということにもなります。
排気量拡大+(スペック上の)ピークトルクのダウンがキーワードになります。
この記事を通じて、ターボ車におけるカタログスペックはある意味で当てにならず、相対的な関係として、
- 排気量の割に高スペックなエンジン:ターボ感の強いエンジン
- 排気量の割に低スペックなエンジン:大排気量NAに近い特性
になることを知っていただければと思います。
特に、近年トレンドになっているダウンサイジングターボは、大排気量エンジンの置き換えというところもあり、後者の排気量の割に低スペックなエンジンになります。
スバルの場合、相対的に、
- 前者がFA20″DIT”(2.0Lターボ 300馬力 400Nm)
- 後者がFA24″DIT”(2.4Lターボ 275馬力 375Nm)
になります。
どっちがいい、悪いの関係ではなく、最高性能と乗りやすさがトレードオフの関係になります。
目次
エンジン性能曲線
FA24″DIT”
水平対向4気筒 2.4L 直噴ターボ”DIT”
- 最高出力:202kW(275PS)/5600rpm
- 最大トルク:375Nm(38.2kgf・m)/2000-4800rpm
これをエクセルにプロットすると、以下のようになります。
FA20″DIT”
水平対向4気筒 2.0L 直噴ターボ”DIT”
- 最高出力:221kW(300PS)/5600rpm
- 最大トルク:400Nm(40.8kgf・m)/2000-4800rpm
これをエクセルにプロットすると、以下のようになります。
FA24″DIT”とFA20″DIT”のカタログスペックから見える違い
WRX S4 FA24″DIT”は80%の性能しか発揮していない可能性
皆さんご存じの通り、カタログスペック上では、
FA24″DIT”<FA20″DIT”
になっています。
以前にCB18″DIT”の性能評価記事を書いたときに、排気量と最大トルクはだいたい比例すると紹介しました。
そして、最高出力はエンジン回転数とトルクの積で決まるので、最高出力の発生回転数が近ければ、最高出力はトルクの比になり、おおよそ排気量に比例します。
レヴォーグCB18″DIT”の性能評価記事と同じものになりますが、こちらの表をご覧ください。
FB25型とFB20型のトルクの比率は、排気量の比率に近いです。
さらに、最高出力発生回転数が近いことから、最高出力の比率も、排気量の比率と近くなることがわかります。
FB25 直噴 (フォレスター) |
FB20 直噴 (インプレッサ) |
比率 | |
排気量 | 2.5L | 2.0L | 1.250 |
最高出力 | 136kW(184PS) | 113kW(154PS) | 1.204 |
最大トルク | 239Nm(24.4kgf・m) | 196Nm(20.0kgf・m) | 1.219 |
これで行くと、
FA24″DIT” | FA20″DIT” | 比率(FA20比) | |
排気量 | 2.4L | 2.0L | 1.2倍 |
最高出力 | 202kW(275PS) | 221kW(300PS) | 0.9140倍 |
最大トルク | 375Nm(38.2kgf・m) | 400Nm(40.8kgf・m) | 0.9375倍 |
排気量が1.2倍になっているのにスペックがだいたい91.4%~93.8%になっています。
ここで、排気量の拡大分と合わせると、(少なめに見積もっても)FA24″DIT”のスペックは、$0.9375×\frac{1}{1.2}=0.78125$となり、78.1%程度しか発揮していないことになります。
これは、FA24″DIT”の本来のスペックとして、
- 最高出力:259kW(352PS)
- 最大トルク:480Nm(48.9kgf・m)
であることを示しています。
また、今後MTのWRX STIがFA24″DIT”で登場すれば、最高出力について360馬力程度か、それ以上になることも予想できます。
※WRX STIの特徴的に、低速トルクよりも高回転馬力を重視する関係上、相対的に高回転型エンジンになるため、最大トルクについては480Nmは下回る可能性が高いです。
では、なぜWRX S4で300馬力オーバーにしなかったというと、考えられることとして、
- リニアトロニックの許容トルクの関係
- ターボラグの改善
があります。
これらについては、後ほど説明します。
本質的には違いがないFA24″DIT”とFA20″DIT”
そして、もっと面白いことに、トルクを基準としてFA20″DIT”のエンジン性能を0.9375倍します。
すると、きれいにエンジン性能曲線が重なりました。
そのため、エンジン本来の特性については、FA24″DIT”もFA20″DIT”も同じといえます。
単純に、
- ボアを拡大
- スペックを抑えた
エンジンが、FA24″DIT”ということになります。
エンジンの素性としては、FA24″DIT”もFA20″DIT”も同じです。
これは先に説明した、FA24″DIT”のエンジン性能が80%程度しか発揮されていない部分とも重なり、やはりエンジン単体の許容量では余裕で300馬力は越えられるでしょう。
ただし、275馬力に設定されている以上、タービンなどは過給性能が抑えられているはずなので、専用のものに交換などが必要になるでしょう。
FA24″DIT”が300馬力オーバーをしない理由
レヴォーグ STI Sport RやWRX S4を検討している方で、最も気になることとしては、なんでFA24″DIT”が300馬力を超えなかったのかというところでしょう。
この部分について考えていきます。
リニアトロニックの許容トルクの影響
一つ目として考えられるのが、リニアトロニックの許容トルクの影響があります。
リニアトロニックは許容トルクが400Nmであり、この制限に引っかかったものと見れます。
参考にですが、これは2020年のアメリカ版 新型レガシィで予想していた、日本国内へのFA24″DIT”が導入障壁と同じです。
結果的にCB18″DIT”モデルのみとなりましたが、仮にFA24″DIT”が日本に導入されていた場合、300馬力を下回る同じ結果になったでしょう。
WRX STIがMTモデルで登場すれば、リニアトロニックの許容トルクに関係なく自由にエンジン性能を設定できますから、400Nmの壁も超えることができ、FA24″DIT”の本来の性能を発揮できるようになるでしょう。
FA24″DIT”は大排気量NAの走り(V6 3.5L相当)の性能を狙っている
本当の狙いはこちらかなと思います。
冒頭で紹介した、
- 排気量の割に高スペックなエンジン:ターボ感の強いエンジン
- 排気量の割に低スペックなエンジン:大排気量NAに近い特性
の部分にかかわってきます。
さて、FA24″DIT”は2.4Lエンジンで、3.5L相当の375Nmのトルクを発揮します。
一方、FA20″DIT”は2.0Lエンジンですが、4.0L相当の400Nmのトルクを発揮します。
つまり、エンジンの立ち上がりの性能で見れば、
- FA24″DIT”:2.4L→3.5L相当(ギャップ1.46倍)
- FA20″DIT”:2.0L→4.0L相当(ギャップ2.00倍)
となり、この排気量換算のギャップが、ターボラグとしてダイレクトに効いてきます。
つまり、
- FA24″DIT”はターボラグを感じにくく、限りなく大排気量NAに近い走り
- FA20″DIT”は出足は遅くても、ターボの盛り上がりを感じる走り
となるのです。
実際レガシィ”DIT”に乗っていて、発進でアクセル全開の場合、加速力が急激に立ち上がるのが2500rpm程度、リニアに加速が伸びるのが4000rpm以降です。
トルクは吸気量に比例し、吸気量は排気量に比例すると考えれば、FA24″DIT”の場合、
- 急激な立ち上がり:$2500rpm×\frac{375Nm}{400Nm}×\frac{2.0L}{2.4L}≒1950rpm$
- リニアに伸び始めるタイミング:$4000rpm×\frac{375Nm}{400Nm}×\frac{2.0L}{2.4L}≒3120rpm$
と推定できます。
そして、急峻な立ち上がりまでをNA、急峻な立ち上がりを線形なトルク、リニアな加速を本来の性能曲線に従うとすれば、ターボラグを考慮したエンジン性能曲線が推定できます。
その性能曲線を、V6 3.5Lのクラウンのエンジン性能曲線と重ね合わせてみます。
■FA24″DIT”
- 赤:FA24″DIT”(2速以降で適用)
- オレンジ:FA24″DIT”ターボラグ考慮(発進時1速で適用)
- 緑:V6 3.5L 性能曲線
フル加速を想定すれば、FA24″DIT”は発進時はターボラグを考慮しオレンジの性能曲線に従い、2速以降で本来の赤の性能曲線に従うことになります。
■FA20″DIT”
- 青:FA20″DIT”(2速以降で適用)
- 水色:FA20″DIT”ターボラグ考慮(発進時1速で適用)
- 緑:V6 3.5L 性能曲線
フル加速を想定すれば、FA20″DIT”は発進時はターボラグを考慮し水色の性能曲線に従い、2速以降で本来の青の性能曲線に従うことになります。
比較してわかることは、ベンチマークとして緑のV6 3.5Lエンジンを基準にすれば、
- 1速の発進時、2速以降の加速の両方で、限りなくV6 3.5Lエンジンと性能が近いのはFA24″DIT”となります。
→これが、FA24″DIT”が大排気量NAに近い走りになるという意味 - FA20″DIT”は出足はV6 3.5Lエンジンよりも遅い一方で、3500rpm以降でFA20″DIT”の方が性能を上回る部分がわかります。
→この急激な駆動力の上昇が、FA20″DIT”がターボ間の強い走りという意味
となります。
WRX S4の公式サイトでも、ターボラグ軽減についてのこだわりが記載されています。
やはり、FA24″DIT”は、ターボラグの低減によって、
- 上級モデルとしての走りの質感向上
- 加速力のピークよりもアクセルレスポンス重視
というあたりを狙っているエンジンであるといえるでしょう。
FA24DITの走行性能(FA20″DIT”と比較)
例えばゼロヨン加速を例にざっくりまとめると、
- 出足の加速はターボラグの差でFA24″DIT”が先行する
- 徐々に馬力の差でFA20″DIT”が追い上げて差が縮まる
となるでしょう。
最終的に無限に長い直線であれば、馬力の差でいずれFA20″DIT”が追い越しますが、FA20″DIT”が400m以内に、出足の差で先行しているFA24″DIT”を追い越せるかまでは判断できません。
これが実際の運転状況であればどのようなものかを想定してみます。
0-100加速・中間加速のレスポンスはFA24″DIT”が優位
これは、先ほど説明した、排気量拡大とピークトルクダウンによるターボラグの低減という部分が効いてくる部分です。
イメージ的には、2.0L車の最大トルクが200Nm、2.4L車の最大トルクが240Nmだった場合、
- FA24″DIT”:240Nm→375Nm
- FA20″DIT”:200Nm→400Nm
となるので、トルクの段差が減ります。
これが、ターボラグの解消につながるわけです。
結局、エンジンの立ち上がり勝負になる0-100加速や、キックダウンによって十分エンジン回転数を高めることができない中速域(ギア比的に80km/h以下)からの中間加速であれば、レスポンスのいいFA24″DIT”が優れます。
これは、まさに日常用途ではFA24″DIT”が優れているということになります。
高速域~最高速はFA20″DIT”が優位
高速域以上であれば、単なる馬力勝負になるので300馬力のFA20″DIT”が優位になります。
高速域とは、シフトダウンで5600rpm程度までエンジン回転数を高めれる車速であり、VM型レヴォーグやBR/BM型レガシィであればギア比的に約80km/h以上になります。
アクセル全開とともに、適切なシフトダウンで最高出力を発揮する5600rpm近傍での加速を行えば300馬力の加速になり、275馬力のFA24″DIT”では追いつけません。
80km/h以上の高速域や、十分に長い直線路での加速勝負など、絶対的な加速性能においてはFA20″DIT”が優れていることになります。
まとめ
ここまで、FA24″DIT”とFA20″DIT”の比較をしてきました。
FA24″DIT”は、300馬力越えにならず残念に感じるかもしれませんが、低速トルク重視で、日常で十分以上な馬力を発揮するスペックは、実用域での動力性能はFA20″DIT”を超える正常進化エンジンといえます。
特に、ワインディングでのコーナからの立ち上がりの気持ちよさについて、FA20″DIT”を上回るでしょう。
言い換えるのであれば、FA24″DIT”は、大排気量NAエンジンに近い乗り味とも言えます。
※ちょうど3.5Lエンジン相当かと思います。
特にFA20″DIT”の性能が優れるのは、最低でも約80km/h以上から。
こう言ってしまうと夢がなくなりますが、80km/h以上の速度域というのは、日常ではあまり関係のない領域かもしれません。
一方で、ターボ車を味うのであれば、まさにFA20″DIT”です。
これはFA24″DIT”との比較でクセのあるエンジンですが、それがまた愉しみでもある。
みなさんは、どっちのエンジンが好みでしょうか・・・?
以上、FA24″DIT”とFA20″DIT”の比較について、参考になれば幸いです。