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今回は、新型クラウン クロスオーバーに搭載されている、デュアルブーストハイブリッドの加速性能評価をおこないます。
自動車の電動化によって、どんどんブラックボックス化が進んでいますが、「ブラックボックスじゃわからない」では、何も話が進みません。
まずは、スペックから見える部分はどんどん可視化していき、
- エンジン単体の性能曲線
- 電動パワートレインの性能曲線
を別々に考え、最終的に合算し、システム全体の性能曲線をグラフ化する流れで進めていきます。
目次
クラウン デュアルブーストハイブリッドの基本情報
クラウンのデュアルブーストハイブリッドの一番難しいところが、フロントエンジン+モータは回転数軸の性能曲線になっていて、リアのe-Axleは速度に対する性能曲線になっているので、性能曲線の横軸が異なります。
また、それ以外にも複雑な構成になっていますが、公開情報をベースに、わかる範囲から順番にリストアップしていきます。
スペック
- システム最高出力:257kW(349PS)
■エンジン
- 直列エンジン4気筒 2.4L ターボ
- 最高出力:200kW(272PS)/6000rpm
- 最大トルク:460Nm(46.9kgf・m)/2000-3000rpm
■フロントモータ
- 最高出力:61kW(82.9PS)
- 最大トルク:292Nm(29.8kgf・m)
■リアモータ(e-Axle)
- 最高出力:59kW(80.2PS)
- 最大トルク:169Nm(17.2kgf・m)
システム全体の構成
システム全体としては、フロントでエンジンとモータが直結され、フロントのみを駆動します。
リアはe-Axleによって駆動され、フロントとは機械的には切り離され、電気的な接続のみとなっています。
エンジン性能曲線について
カタログスペック値
エンジン性能曲線の推定は、フラットトルクなエンジンが採用されているため、ある程度は可能です。
代表点として、以下の通り選んでいます。
エンジン回転数 | トルク | 出力 | 備考 |
1000rpm | 200Nm | — | FA24″DIT”より推定 |
2000rpm | 460Nm | — | カタログ値 |
3000rpm | 460Nm | — | カタログ値 |
6000rpm | — | 200kW | カタログ値 |
※トルクを直線で結んでいます。
※この性能曲線は、2速以降で有効になります。
ターボラグ考慮版
デュアルブーストハイブリッドはターボ車なので、発進時にはターボラグが生じます。
以前にターボ車の発進加速性能の推定方法【ターボラグを考慮する方法】で説明した手順に従ってターボチャージャーの立ち上がりを補正すれば、下の性能曲線になります。
具体的な数字でいえば、クラウン デュアルブーストハイブリッドの場合、
- 2370rpmでターボが立ち上がり始め
- 3830rpmで完全に立ち上がる
と推定できます。
なお、1000-2370rpmの性能曲線は、BRZ FA24の性能曲線から算出しています。
※この性能曲線は、発進時かつ1速ギアの時のみ有効になります。
フロントモータの性能曲線
フロントモータの性能曲線の推定は容易です。
モータは基本的に始動時に最大トルクであり、最大トルクを維持したまま回転数が上昇します。
最大出力点に到達すれば、出力一定のまま(トルクは反比例に減少)しながら回転数が上昇し、ある回転数で出力が低下していきます。
リアモータ(e-Axle)の性能曲線
リアモータ(e-Axle)についても、性能曲線は容易です。
モータは始動時にトルク一定であり、その後最高出力点に到達すると、一定出力運転を行います。
ただし、問題となるのがフロントのパワートレインと完全に切り離されていることです。
ギア比が不明であり、実際にタイヤに伝わるトルクがどの程度のものなのか推定できません。
(調べてますが、完全にブラックボックスです。)
この辺りは、発進加速の立ち上がり(主に0-100加速タイム)の評価誤差につながる部分です。
フロントモータ+リアe-Axleの車速に対する出力曲線の導出過程
ちょっと長くなりますが、スペックからわかる制約条件を基に、前後の電動機の出力曲線の総和(フロントモータ+リアe-Axleの出力曲線の和)を導出していきます。
(本来は)フロントハイブリッドの最高出力点とe-Axleの最高出力点は同時に存在する
デュアルブーストハイブリッドを見ていてわかることは、構造上、理想的に見ればフロントハイブリッドシステムと、リアe-Axleの最高出力点は同時に存在することです。
フロントハイブリッドシステムはシステム回転数によって出力が変化し、おおよそ6000rpmの時、最高出力に達します。
リアのe-Axleは、通常の場合はギア比固定で全車速域を駆動するため、リアモータの性能曲線の横軸(回転数rpm表記)は、そのまま車速に読み替えることができます。
つまり、リアモータの性能曲線で示した高回転域で実現されている一定出力運転域に到達すれば、常時最高出力になります。
この条件は、車速が十分速いことで満たされます。
以上の条件から、
- エンジン回転数(システム回転数)が6000rpm
- 車速が十分高速な運転状態
であれば、フロントハイブリッドシステムとリアe-Axleは同時に最高出力を発揮する運転状態になるはずです。
文章だけでは伝わりにくいので、下の図も参考にしてください。
最高出力から見るバッテリー性能
システム高回転域かつ高速運転時には、フロントハイブリッドとリアe-Axleの最高出力が同時に発揮され、この数値がカタログ掲載のシステム最高出力値になるはずです。
しかし、クラウンのデュアルブーストハイブリッドでは、
- エンジン出力(272PS)
- フロントモータ出力(82.9PS)
- リアモータ出力(80.2PS)
の合計435.1PSではなく、349PSと非常に低い数値になっていて、また疑問が増えます。
この点について、少し別の視点から見てみれば、
- エンジン出力(272PS)とフロントモータ出力(82.9PS)=354.9PS
→誤差5.9PS - エンジン出力(272PS)とリアe-Axle出力(80.2PS)=355.2PS
→誤差6.2PS
とみれば、軽微な誤差を無視すれば、非常に話が合います。
ということは、フル加速時、バッテリー性能としてはフロント・リアの両方のモータに最大電力を供給することは想定していないことがわかります。
つまり、ハイブリッドシステムの制御としては、バッテリーの最大供給電力は80PSほどであり、その配分をフロントとリアのどちらに供給するかを選択しているイメージになります。
イメージとしては下の図です。
逆に、下図のような状況はあり得ません。
この記事では、バッテリーから供給される最大電力は、
- フロントモータ基準で82.9PS
- リアモータ基準で80.2PS
- システム出力基準で77PS
の3パターンがありますが、間をとって80.2PSで計算します。
軽微な誤差は含みますが、システム出力と比較すれば最大でも1.69%程度の誤差なので、十分許容できる範囲と考えました。
結構面白い部分なので、追加で検討してみました。
RX500h F SPORT Peformanceが発売されましたが、同様に検討していけば、
- エンジン:275PS
- フロントモータ:87PS
- リアe-Axle:103PS
に対し、システム出力371PSとなっているので、バッテリー性能としては96PS程度、つまりリアのe-Axleの性能を基準にバッテリーを選定していることが推測できます。
リアe-Axleが最高出力になる速度域の概算
ここで問題となるのが、リアe-Axleがどの程度の速度で最高出力を発揮するかです。
リアe-Axleの最高出力になる速度域さえわかれば、アクセル全開加速を想定する場合、走行状態に応じてバッテリーからの80PSを前後に分配するだけであり、トータルで加速に使われるエネルギーは80PSで一定になるため、加速性能をグラフ化できます。
クラウンの場合、e-Axleのギア比が公開されていないので、代わりにBZ4X(ギア比:13.786)で見てみました。
これを先ほど計算したリアe-Axleに適用し、タイヤデータ225/45R21(タイヤ外径735mm)を含め、横軸を車速にすると以下のグラフになりました。
この通り、33km/h程度ですでに最高出力運転に到達していると見れるます。
つまり、33km/h以降では、もうエンジン性能曲線に対し、常時80.2PSが上乗せされているとみても問題ありません。
33km/h以下の極低速域におけるモータ出力の総和
あとは問題となるのが、33km/h以下のモータ出力の総和です。
- フロントモータの1速ギアにおける車速に対する出力
- リアe-Axleの車速に対する出力
を足し合わせ、かつバッテリーの制約事項として80.2PS以下でなければなりません。
この条件を適用して描いたのが、下のグラフになります。
下のグラフでは、
- 緑色:フロントモータ出力
- 水色:リアe-Axle出力
- 点線:フロント出力+リア出力
- 赤色:電動パワートレイン最高出力80.2PS(59kW)に制限した出力曲線
となります。
最終的に赤線が電動パワートレインの車速に対する出力曲線となり、おおよそ11km/h時には電動パワートレインは最高出力に到達していることがわかります。
デュアルブーストハイブリッドの加速性能
さて、エンジン性能について、
- ターボラグを考慮したエンジン性能曲線
- カタログスペックのエンジン性能曲線
と、電動パワートレインについて、
- 前後電動パワートレインの車速に対する出力和
が計算できているので、あとは足し合わせれば加速性能曲線が導けます。
発進時のシステム性能曲線
発進時の条件として、
- エンジン性能曲線(ターボラグを考慮)
- 電動パワートレインの車速に対する出力和
が必要になります。
その結果、出力曲線は以下のとおりになります。
この計算が結構面倒で、先ほど電動パワートレインの横軸を車速にしましたが、再度エンジン回転数(システム回転数)基準に戻してから和を計算しています。
2速以降のシステム性能曲線
2速以降は、車速としては通常であれば車速は11km/h以上であると仮定できるので、電動パワートレインは常に最高出力80.2PSを発揮できる状況にあります。
ただし、フロント・リアにどのように電力が分配されているかまでは特定できません。
そのため、システム性能曲線の条件として、
- エンジン性能曲線(カタログスペック値)
- 電動パワートレインの最高出力(80.2PS)
の和と計算できます。
この通り計算すれば、下の図になります。
車速に対する加速性能曲線
以上より、
- 1速:発進時のシステム性能曲線
- 2~6速:2速以降のシステム性能曲線
を使って、タイヤサイズやギア比の情報を含め、車速に対する性能曲線を描けば、下のグラフになりました。
長かったですが、これでデュアルブーストハイブリッドの加速性能を可視化できたといえます。
今後、他の車種との加速性能比較に、この検討結果を利用できるものと思います。
まとめ
ここまで、クラウンのデュアルブーストハイブリッドについて考えてきました。
ポイントとして、電動パワートレインが意外に強力で、リアe-Axle単体で33km/hで最高出力に達する他、フロントモータとリアe-Axleの和となる電動パワートレイン全体で見れば、11km/hの時点ですでに最高出力を発揮しています。
この強力なモータアシストがあるので、ターボラグを感じない蹴り出し感のある加速、そのあとのターボのパワーの盛り上がりを感じ、力任せにゴリゴリ加速していく加速を感じられるものと思います。
また、本文中ではあまり触れませんでしたが、一番最後の加速性能曲線のグラフで、変速時の出力の落ち込みが大きいです。
これは加速力がいったん途切れ、いわゆる変速ショックを感じるセッティングになっています。
この変速ショックで、フル加速時にはスペック以上の加速感を体感できるものと思います。
マルチステージハイブリッドでは、モータ制御を精密に行いフラットな加速を実現していましたが、デュアルブーストハイブリッドでは走りの味として変速ショックを意図的に作り題しているものと思います。
マルチステージハイブリッドと比較している方も多いかもしれませんが、車の乗り味としてはちょうど真反対の位置にあるといってもいいでしょう。
以上、クラウンのデュアルブーストハイブリッドについて、参考になれば幸いです。
余談:過剰なモータ性能はAWDトルク配分のためか
ちょっと余談ですが、クラウンの場合、バッテリー性能80PS程度に対し、フロントとリアのモータ出力合計が163.1PSと過剰なように見えます。
過剰に高出力なモータは、車重が増えるだけで好ましくありません。
しかし、フロントモータとリアe-Axleの出力が似たものになっているということは、フルタイムAWD走行時を想定したものと考えれば説明がつきます。
例えば、エンジン主体で走行中、その動力をリアに配分したい場合、
- フロントモータで80PSを発電
- リアe-Axleで80PS駆動
といったエネルギーフローを行う場合、フロントとリアには同程度の出力となるモータが必要になります。
※この時、フロントの駆動力を電気パスを通してリアに分配しているだけなので、バッテリーからの供給電力は0です。
ただ、そうは言ってもバッテリー80PSに対しモータ80PS×2という構成は最適化の余地があります。
なぜなら、電源よりも負荷の方が大きいシステム構成に違和感を感じるのは当然のはず。
制御アルゴリズムを工夫すれば何とかなりそうな気もしますが、トヨタの開発的には現状における最適解ということなのでしょう。
この辺りは次期型でもう少し最適化されるかもしれません。
特にフロントモータのスペックは改善の余地があるといえます。
フロントモータは最大トルク292Nmの高トルクモータで、トルクが大きいということは大きな電流が流れるということであり、大きな電流が流れるということはモータの銅線が太いことになります。
つまりフロントモータが銅線のカタマリみたいになっているので、電動パワートレインを最適化するならフロントモータのように感じます。