マルチステージハイブリッドのデメリットと将来性について

みなさん、こんにちは!

ブリュの公式ブログ.comにお越しいただきまして、ありがとうございます。

今回は、トヨタが新開発したマルチステージハイブリッドについて、現状におけるデメリットと将来性について考えました。

4速AT部分の振動が問題になるマルチステージハイブリッドは、ハイブリッドシステムの保護のために工夫が施されています。

しかし、その工夫はシステム出力で見ると性能低下になる方向性に働くものになります。

なので、

  • マルチステージハイブリッドの実現のための工夫
  • システム性能のハイパフォーマンス化においての妥協点

といった感じで、見方によって評価も変わってくる部分かなと思います。

今回は、こうしたマルチステージハイブリッドのデメリットと将来性についてまとめました。

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以前にLC500hの加速性能を考えるときにマルチステージハイブリッドのフル加速時の制御方法とシステム性能曲線について考えました。

この記事は、以前の記事の続きのような位置づけになります。

まだ前回の記事をご覧になっていない場合は、先にご覧いただきますとより伝えたいことが伝わるのかなと思います。

【以前の記事】マルチステージハイブリッドの加速性能について

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マルチステージハイブリッドの実現を難しくした要因

マルチステージハイブリッドの実現を難しくした要因は、変速時のショックによるハイブリッドシステムの振動への対策が難しいことです。

普通のガソリン車であれば、エンジン、トランスミッションがあり、タイヤまで動力を伝える単純な構造です。

しかし、マルチステージハイブリッドのベースとなっているTHS-Ⅱでは、トランスミッションより前の部分に、エンジン、モータが2台、そして動力分割機構と、複雑な構造を持っています。

そのため、多段ATにおける変速ショックが、ハイブリッドシステムに及ぼす影響も大きく、この点においてトヨタ系のハイブリッド車はすべて電気式無段変速機を採用していました。

今回、マルチステージハイブリッドにおいて4AT+電気式無段変速機を実現したのは、こうした振動を抑制する手法が確立出来たためといえます。

一方で、振動を抑制するために、代わりに何かしらの妥協点があるはずです。

マルチステージハイブリッドのデメリットは、振動対策のために失ったものといえます。

逆に考えれば弱点が明確なわけですから、マルチステージハイブリッドの将来性・発展性とも評価できる部分です。

例えば、トルク変動を抑える一つの方法として、トレランスリングという鋼製のリングが装着されています。

こうした構造面から振動を抑えることが可能になれば、マルチステージハイブリッドは一気に進化するといえます。

出展:新型トヨタ・クラウンのメカニズムを徹底レビュー!セダンとしての評価は?

マルチステージハイブリッドの一定出力特性

システム性能曲線の導出結果と加速性能

以前に紹介したマルチステージハイブリッドの加速性能評価において、マルチステージハイブリッドのシステム性能曲線は、システム回転数が高回転域で一定であることを紹介しました。

ここでも結果だけを簡単に紹介しておきます。

詳細の導出は、マルチステージハイブリッドの加速性能評価をご覧ください。

そして、元となるエンジン性能曲線があり、システム高回転域においては、モータの抑制運転が行われるほか、システム最高出力の264kWを一定に保つような制御が行われていると推測しました。

下のグラフが、V6 3.5Lエンジンのエンジン性能曲線です。

そして、下のグラフがモータの性能曲線です。

下のグラフで、

  • 青色 オレンジ色:抑制されたモータ性能曲線
  • 灰色 黄色:本来のモータ性能曲線

です。

この結果、マルチステージハイブリッドの加速性能は、フル加速時に一定出力で加速することを導きました。

妥当性の検証

・システム性能曲線の一定トルク・一定出力特性について

トヨタが論文において新旧のハイブリッドシステムを比較したグラフが参考になります。

New hybrid systemでは、最初が一定出力、その後トルクが反比例に似た形で変化する(≒一定出力)であることがわかります。

※横軸は時間ですが、時間は車速と関係があり、車速はシステム回転数と関係があるので、概形レベルでは一致します。

※出力はトルク×回転数であり、トルクが回転数に反比例するなら出力が一定になります。

・加速性能曲線について

出力が常時一定であるならば、駆動力は車速に反比例します。

この辺りは、以前に投稿している車の加速は馬力で決まる理由をご覧ください。

トヨタの公開しているグラフより、やはり出力一定で加速していくことが分かります。

トルク(駆動力)変動を抑える一定出力制御

多段AT車にお乗りの方の場合、変速ショックを感じられると思います。

最近の車では変速段数も多くなり、また制御自体も進歩していることから感じにくいとは思いますが、それでも変速ショックは必ずあります。

その理由の一つとしてあるのが、トルク(駆動力)の変動なんですね。

では、仮にモータの出力抑制がなかった場合のシステム性能曲線を見てみましょう。

見ての通り高回転域において出力変動が生じるんですね。

例えば、LC500hの場合、1速と2速の変速が行われる車速は50km/h程度です。

トヨタの公開している車速とエンジン回転数のグラフを参考にしてみます。

この時、

  • 1速:6700rpm
  • 2速:5000rpm

です。

では、抑制なしのシステム性能曲線上記のグラフにおいて、6700rpmと5000rpmの出力を見てみると、

  • 6700rpm:342kW
  • 5000rpm:317kW

となります(上記数値はエクセル上での計算結果です)。

実際に計算してみましょう。

  • タイヤサイズ:275/35R21(外形725mm)
  • 車速:50km/h

とすると、50km/h時のタイヤ回転数$R_{tire}$は、

$$\frac{50×1000}{60}=\pi ×\frac{725}{1000}×R_{tire}$$

より、$R_{tire}=366\rm{[rpm]}$となります。

一方、

  • エンジン出力:$P_{engine} \rm{[kW]}$
  • エンジントルク:$T_{engine} \rm{[Nm]}$
  • エンジン回転数:$R_{engine} \rm{[rpm]}$

とすると、

$$P_{engine} ×1000= 2\pi T_{engine} \frac{R_{engine}}{60}$$

となり、$T_{engine} =\frac{P_{engine} \rm{[kW]}}{R_{engine}\rm{[rpm]}}\frac{60000}{2 \pi}$となります。

ここで、タイヤに伝わるトルク$T_{tire}$は$T_{tire}=\frac{R_{engine}}{R_{tire}} T_{engine}$なので、

$$T_{tire}=\frac{P_{engine} \rm{[kW]}}{R_{tire} \rm{[rpm]}}\frac{60000}{2 \pi}$$

となります。

※出力ベースで考えるとタイヤのトルクはエンジン回転数に依存しません。

※上記の式より、エンジン出力が一定なら駆動力変動がないことも確認できます。

上記式に、

  • 6700rpm:342kW
  • 5000rpm:317kW

を代入すれば、トルク変動は、

  • 6700rpm:8928[Nm]
  • 5000rpm:8725[Nm]

で、差は203Nmの差です。

この変速ショックはパワートレインに由来するものですから、程度の差はあっても当然ハイブリッドシステムにも伝わります。

そうなると、トヨタが気にしている振動が発生します。

このトルク変動を抑えるために、出力の調整力としてモータが利用されています。

すなわち、高出力域においてモータが抑制運転され、モータが最高性能を発揮できていないということになります。

なお、次の章で紹介しますが、実際のフル加速時の変速制御ではエンジン回転数は6000rpm以上をキープします。

5000rpm程度でもモータの抑制対象になっているのは、マニュアルシフトを考慮した結果なのではないかと思います。

回転数変動を抑える二次関数的変速制御

以前の記事で二次関数的な変速制御をしているということも紹介しました。

これはYouTubeの動画から明らかなことです。

回転数変化に注目しながら動画をご覧ください。

なお、詳細な導出は、以前の記事をご覧ください。

実際の変速制御では下の図で追記している赤線の変速制御になります。

切片を持つ制御はさすがに現実に合わない部分ですので、原点を通る二次関数的変速制御が行われています。

この二次関数的な変速制御も、ハイブリッドシステムの変速時における回転数変化を抑える効果があります。

実際のところ、線形な普通の制御であれば、

  • 1速:6700rpm
  • 2速:5000rpm

と、1700rpmの回転数差がありました。

この変速ショックはハイブリッドシステムに直に届きます。

しかし、二次関数的制御を用いれば、

  • 1速:6700rpm
  • 2速:6000rpm程度

と、回転数差は700rpmで済みます。

マルチステージハイブリッドの加速動画を見ていると、何となく加速音に違和感を感じた方も多いと思います。

その感覚はまさに鋭い直感をお持ちの方で、加速力とエンジン回転数の変動が一致していないことに起因する違和感です。

この違和感のある加速音も、振動を抑えるための結果という説明ができるでしょう。

なお、トヨタ側がどれだけの回転数変動を許容しているのかというところまではさすがにわかりません。

見えているのは、急激な回転数変化を抑えて、高出力域においてハイブリッドシステムを保護しているという挙動だけです。

今後のマルチステージハイブリッドの展望

これらを踏まえて、今後のマルチステージハイブリッドの展望について考えます。

マルチステージハイブリッドが一気に性能向上するのは、振動を機械的に防げるようになった時です。

そうすると、モータの抑制運転(出力調整力の確保)も不要になるか、今よりも小さくなりますから、フル加速時にモータ性能を今以上に発揮でき、加速性能が飛躍的に向上するはずです。

そう考えると、今のマルチステージハイブリッドは初期型で、発展途上にあるシステムといえるでしょう。

もし待てるのであれば、マルチステージハイブリッドの購入は待ったほうがいいのではと思います。

おそらくトヨタのことですから、もうある程度解決策は見つけているのではないでしょうか。

※自動車業界においては、フルモデルチェンジをした時には、次のフルモデルチェンジの構想がある程度固まっているなんて話も聞いたことありますし。

第二世代のマルチステージハイブリッドが登場したら、現行(初期型)マルチステージハイブリッドが一気に陳腐化すると思います。

まだ技術の出し惜しみがあるでしょうね・・・

なお、クラウンのマルチステージハイブリッドモデルは例外で、もう購入しておいたほうがいいと思います。

クラウンはセダンタイプが現行型で終了というアナウンスがあります。

クラウンのセダンを新車で購入できる最後のチャンスですから、最終型の歴代最高性能モデルとして購入する価値は十分にあると思います。

まとめ

ここまで、マルチステージハイブリッドのデメリットについて紹介してきました。

マルチステージハイブリッドの難しさは、多段AT採用による振動です。

そして、その振動を防ぐ対策として、

  • モータ性能が発揮しきれていないこと
  • 体感的に違和感のある変速制御

が行われているといえます。

フィーリングについては個人差がありますから評価の対象外としますが、モータ性能が発揮しきれていないこと、一定出力を維持するための調整力に徹していることは、システム全体として残念な部分です。

おそらく、第二世代のマルチステージハイブリッドでは、振動についての根本的な解決とともに、モータも本格的に加速に参加できるようなシステムとなるでしょう。

そういう意味で、マルチステージハイブリッドは、非常に将来性のあるシステムだなと思います。

まだ発展途上に見える新型ハイブリッドシステム。

クラウンを除き、購入は、待ったほうがいいのでは・・・というのは、個人的な意見ですね。

なお、今後環境規制が厳しくなり、将来的には純粋なガソリン車の販売が禁止されます。

そのため、マルチステージハイブリッドのLC500hやLS500hよりも、V8 5.0LのLC500やV6 3.5L ツインターボのLS500のほうが、今しか乗れない車です。

技術的な面もありますが、こうした環境規制に対する時代の流れも含めた車選びもしてみるといいかもしれないですね。

以上、マルチステージハイブリッドのデメリットと、将来性について、参考になれば幸いです。

関連記事:クラウン デュアルブーストハイブリッドの加速性能評価

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