スバルの新世代BOXERエンジンFA20″DIT”エンジン。
レガシに搭載され、その後レヴォーグ、WRX S4にまで搭載されたFA20″DIT”エンジン。
2.0Lながら300PSを発揮するエンジンは、スバリストの中では有名でしょう。
しかし、WRX STIには、いまだにEJ20型が搭載されています。
WRX STIに搭載されると言われ続けながらなかなか搭載されないFA20″DIT”。
なぜWRX STIには搭載されないのか?。
この記事では、エンジン特性から、その理由を考えていきます。
目次
FA20″DIT”はEJ20を上回るメリットがあるのか?
FA20″DIT”とEJ20は互いに異なった特徴のあるエンジンです。
キャラクターが違うエンジンなのですが、スバルはWRX STIにおいて、FA20″DIT”よりもEJ20が最適と判断しているわけです。
と言うことは、EJ20にあってFA20″DIT”に無いもの。
これを考えれば、スバルの思考回路に使づくことができるでしょう。
パッと見たら似ているEJ20ターボとFA20″DIT”
でも、なぜWRX STIにFA20″DIT”が搭載されると言われ続けるのでしょうか?
その理由は、EJ20ターボとFA20″DIT”はともに水平対向4気筒2.0L ターボだからです。
最高出力も
- EJ20ターボが308PS
- FA20″DIT”が300PS
であり、スペック的にも似ています。
また、「直噴エンジンは燃費がいい」ということから、「EJ20ターボと同等の出力でありながら、燃費がよい」ということで、「WRX STIのエンジンはFA20″DIT”にも搭載されるんじゃないか?」と話題になるのですね。
しかし、実際にエンジン性能を細かく見ていくと、WRX STIにDITエンジンが搭載されない理由が見えてきます。
両者は全く異なったエンジンであり、WRX STIにはEJ20ターボが最適であるという結論が見えてきます。
FA20″DIT”の特徴
では、FA20″DIT”の特徴から見ていきます。
FA20″DIT”はWRX S4とレヴォーグに搭載されます。
エンジンスペックは、
221kW(300PS)/5600rpm
400Nm(40.8kgf・m)/2000-4800rpm
です。
エンジン性能曲線は、次のようになります。
特徴としては、
- たったの2000rpmで400Nmを発揮する。
- その後4800rpmまで400Nmをフラットに発揮し続け、
- たったの5600rpmで300PSを発揮する
ことになります。
EJ20の特徴
次にEJ20の特徴を見て行きます。
227kW(308PS)/6400rpm
422Nm(43.0kgf・m)/4400rpm
となります。
エンジン性能曲線は次のようになります。
特徴としては、
- 2500rpm程度から最大トルクを発揮して、
- 4500rpmまでフラットなトルク。
- その後徐々にトルクが落ちて、
- 6400rpmで最高出力の308PSを発揮する
という特性になっています。
FA20″DIT”とEJ20を比較する
2つのエンジンを比較すると、相対的にFA20″DIT”は低回転型エンジン。
EJ20は高回転型エンジンであることが分かります。
出力はトルクとエンジン回転数の積で決定されます。
そのため、エンジンには大きく分けて2種類の傾向があり、トルクから高出力を得るエンジンと、エンジン回転数から高出力を得るエンジンがあります。
FA20″DIT”は、低回転型エンジンで、吸気量と圧縮比を高めることでトルクを絞り出し、トルクの太さで馬力を稼ぐエンジンになっています。
一方で、EJ20は、エンジン回転数が上がりターボが効いてから本領を発揮し、高回転まで続くトルクで馬力を出しています。
したがって、エンジン回転数を主体として馬力を稼ぐエンジンになっています。
FA20″DIT”とWRX STIのMTの組み合わせ
FA20″DIT”エンジンは、トルクで馬力を出すため、高回転ではトルクの落ち込みが大きくなります。
したがって、馬力も高回転では落ち込みが激しいです。
また、最高出力発生回転数付近の出力も急激なグラフになっています。
これは、最高出力近傍のパワーを発揮する回転域が狭いことになります。
このエンジンにWRX STIのMTを組み合わせると、最高加速力を発揮させようと思うと、変速回数が増え、変速のタイムロスでEJ20型より遅くなる可能性が高いです。
では、トランスミッションは6MTで全く同じギア比のものを搭載し、エンジンのみがEJ20とFA20″DIT”の場合を比較します。
まずは、EJ20の0-200km/hの加速のグラフです。
縦軸が出力[kW]、横軸が車速[km/h]になります。
最大限の加速を行うには、このグラフ上で出力値が最大になるように変速をしていけばOKです。
次に、FA20″DIT”の0-200km/h加速のグラフです。
例えば、0-100km/hの部分で見れば、EJ20なら2速で100km/hに到達しますが、FA20″DIT”では3速で100km/hに到達します。
FA20″DIT”なら、変速回数が1回増えてしまい、この分が加速タイムでロスとなります。
したがって、FA20″DIT”が搭載されない理由の一つとして、最高出力近傍のパワーを発揮する回転域が狭いFA20″DIT”はWRX STIのMTとの相性が悪いことになります。
疑似的に高回転型エンジンにすると?
ギア比次第では、FA20″DIT”も「疑似的に」高回転型エンジンにすることができます。
これで、FA20″DIT”のエンジン特性を限りなくEJ20型と同じ特性のエンジンにすることができます。
まずは、EJ20とFA20″DIT”の性能曲線をエクセルにプロットします。
EJ20の性能曲線がこちらです。
FA20″DIT”の性能曲線がこちらです。
ここで、最高出力発生回転数をそろえるために、それぞれの最高出力発生回転数をチェックすると、
- FA20″DIT”が5600rpm
- EJ20が6400rpm
なので、FA20″DIT”に5600÷6400=0.875のギア比となるギアをエンジンの後ろに入れ、ギアの後ろをエンジン出力と置き換えれば、疑似的な高回転化が可能になります。
これによって、FA20″DIT”のエンジン性能は、トランスミッションより前方の部分をエンジンと置き換えると、
221kW(300PS)/6400rpm
350Nm(35.7kgf・m)/2286-5486rpm
となります。
このようにすれば、最高出力近傍のパワーを発揮する回転数域が1÷0.875=1.14倍に広がり、先ほど説明した変速回数をWRX STIとそろえることが可能になります。
ここで得られた性能曲線をWRX STIの性能曲線と重ね合わせます。
メリットとしては、この変速比0.875を最終減速比で調整すれば、FA20″DIT”そのものの低速トルクの太さから、発進時にエンストしにくい特性が得られます。
※クラッチ部分ではエンジンのトルクが働くため、太いトルクでクラッチミートする方がエンストしにくい。
しかし、デメリットがかなり大きく、スペック上のFA20″DIT”特有の低速トルクの太さは消え、エンジンスペックではEJ20が完全に上回ります。
また、構造上でも、EJ20はポート噴射に対し、FA20″DIT”は直噴ターボであるため、燃料噴射ノズルの負荷も違います。
サーキットなどで走り込んだ場合、エンジンの耐久性はどうしてもポート噴射が上回るため、ギア比の調節でWRX STIにFA20″DIT”を搭載するのはメリットが薄すぎるばかりでなく、デメリットが目立つ結果となります。
FA20″DIT”はリニアトロニックに最適な特性
FA20″DIT”の最高出力近傍のパワーを発揮する回転域が狭いというデメリットは、一定回転数を維持できるリニアトロニックには最適な特性であると言えます。
また、最速モードのS#では、伝達効率を重視してステップ制御になりますが、
6速ではなく8速まで細かく区切るのもこのためです。
伝達効率を上げつつ、限りなく最高出力で加速するための工夫です。
参考:スバルのリニアトロニックが伝達効率の関係上S#モードで8速の多段変速制御を用いる理由
FA20″DIT”のエンジン特性については、別の記事で解説します。
まとめ
ここまで、WRX STIにFA20″DIT”が搭載されない理由について考えてきました。
WRX STIにFA20″DIT”が搭載されない理由としては、
- 高回転まで回らないかつ、最高出力近傍の回転域が狭いことから、変速回数が増える。
- 疑似的に高回転化しても、FA20″DIT”特有の「低速トルクの太さ」が失われる。
ということが分かりました、
これらの理由により、現状のエンジン特性ではWRX STIにはEJ20ターボが最適なエンジンとなります。
FA20″DIT”エンジンの特性がもっと高回転型エンジンになり、エンジン性能曲線が、限りなくEJ20に近づけば、WRX STIに搭載される可能性も出てくるでしょう。