スバルの経営ビジョンのブランド形成として、STIブランドの躍進を掲げています。
つまり、欧州プレミアムモデルが、AMGやMなどを掲げるように、スバルはSTIをモータースポーツの象徴として、ブランドを明確化する狙いがあります。
その一環として登場したのがSTI Sport。
誰でも気軽にSTIのスポーティな走りを楽しめることがコンセプトですが、ブランド形成的には失敗している部分があります。
何に対してSTIは失敗したのか?
ライバル車や欧州モデルと比べながら、今後の販売戦略について考えていきます。
目次
はじめに
目次の中にポルシェ ケイマンが登場していますが、その通りです。
今ならWRX STIを上級シフトすれば、ポルシェ ケイマンとライバル関係を構成できます。
さらに、ポルシェ ケイマンを利用して、STIをスバルの象徴的ブランドにまで大きく飛躍させるチャンスでもあります。
なお、この記事はスバルが掲げているSTIのブランド力の向上に対しての販売戦略を評価、考察する記事です。
特定の車種に対しての良し悪しを評価する記事ではないことは、十分ご理解の上、お読みください。
STIとSTI Sport
スバルにおけるスポーツモデルはWRX STIが筆頭モデルです。
WRX STIについては、通称インプレッサと呼ばれるほどに、WRブルーのカラーに大型のリアウィング、ゴールドのホイールといったイメージで、スポーツモデルとしての象徴的存在になっています。
しかし、WRX STIは普通車よりもハードな乗り心地である他、MT専用となっていることもあり、一般の方はなかなか購入しにくい車であることも事実です。
一方で、STI Sportはレヴォーグから始まったモデルであり、WRX STIほどハードな乗り心地でもなく、AT車でイージードライブができるにもかかわらず、STI譲りのパフォーマンスを愉しむことができるモデルとなっています。
そんなSTIとSTIの派生モデルであるSTI Sportですが、スバルのラインナップの中で明確に差別化ができているでしょうか?
スバルがSTIをブランド化するのことを狙う以上、これから数年かけたブランドイメージの構築は重要なことです。
他社の場合を例に、最適な販売戦略について考えてみました。
AMGやMと比較したSTIの位置づけ
スバルが狙っているSTIのスポーツモデルとしての象徴化するとは、海外勢で見ればメルセデス・ベンツのAMGや、BMWのMに近いものがあります。
ここでは、例としてBMWを見てみましょう。
例えば、4シリーズを例に価格を書いてみます。
モデル | トランスミッション | 新車価格 |
420i クーペ M SPIRIT | 8速スポーツAT | 5,730,000円 |
420i クーペ Sport | 8速スポーツAT | 5,960,000円 |
420i クーペ Luxury | 8速スポーツAT | 6,150,000円 |
420i クーペ M SPORT | 8速スポーツAT | 6,170,000円 |
430i クーペ SPORTT | 8速スポーツAT | 7,220,000円 |
420i クーペ Luxury | 8速スポーツAT | 7,250,000円 |
430i クーペ M SPORT | 8速スポーツAT | 7,420,000円 |
440i クーペ Luxury | 8速スポーツAT | 8,580,000円 |
440i クーペ M SPORT | 8速スポーツAT | 8,750,000円 |
M4 | 6速MT | 11,850,000円 |
この価格表を見て感じて欲しいのが、BMW 4シリーズの通常モデルと、BMW M4の価格差です。
4シリーズ最上級モデルのと440i クーペ M SPORTとM4の価格差は300万円以上、エントリーモデルの420i クーペ M SPIRITとM4の価格差はおよそ倍となっています
これによって、BMW 4シリーズにおけるスペシャルモデルをM4とすることで、Mブランドのハイパフォーマンスなイメージを浸透させることができます。
M4は街中で乗るには過剰な性能であることと、通常モデルとの価格差が非常に大きいことで、Mを冠する車は本当の意味でのスペシャルモデルになります。
そのMのイメージを引き継いで、街乗りでも誰でもMの走りを愉しめるようにしているのが、4シリーズの通常モデルにあるM SPORTです。
4シリーズのM SPORTモデルであれば、そこまで価格は上昇しません。
街中でも乗りやすいし、価格面でも手の届きやすい価格にすることで、Mモデルを神格化しつつ、M SPORTという量販モデルが売れるのです。
したがって、BMW 4シリーズのイメージを作っているのは、4シリーズ自身ではありません。
M4によって、BMW 4シリーズ全体のスポーツ性のイメージと、スペシャル感が引き上げられているのです。
逆に、スバルの場合を見てみましょう。
WRX S4ではモデルが少なすぎるので、あえてレヴォーグで比較します。
モデル | トランスミッション | 新車価格 |
レヴォーグ 1.6GT EyeSight |
リニアトロニック | 2,862,000円 |
レヴォーグ 1.6GT EyeSight S-style |
リニアトロニック | 2,926,800円 |
レヴォーグ 1.6GT-S EyeSight |
リニアトロニック | 3,078,000円 |
レヴォーグ 1.6STI Sport EyeSight |
リニアトロニック | 3,564,000円 |
レヴォーグ 2.0GT-S EyeSight |
スポーツリニアトロニック | 3,618,000円 |
レヴォーグ 2.0STI Sport EyeSight |
スポーツリニアトロニック | 4,050,000円 |
WRX STI | 6速MT | 3,866,400円 |
WRX STI Type S | 6速MT | 4,060,800円 |
この価格表を見て気づくことはありませんか?
レヴォーグSTI Sportを購入できる価格で、本物のSTIモデルが購入できます。
BMWの場合には、数は売れなくてもM4というスペシャルモデルのイメージを作成することで、通常モデルにおけるM SPORTのイメージを作っていました。
スバルの場合、STI SportというSTIよりマイルドなモデルを販売しているにもかかわらず、本家のWRX STIと価格差がありません。
これでは「STI」自体に、スペシャル感がありません。
そもそも、スポーツモデルにおけるブランド構成を考えれば、アピールポイントであるスポーツ性能に対して価格設定されるのが一般的です。
最高額モデルが売れる、売れないに関わらず、最上級モデルの価格と、日常離れした過剰性能が、そのブランドのイメージを構成するからです。
性能面の差で見れば、サーキットを走れるWRX STIと、日常用途が主体のSTI Sportということで、十分な差別化はできています。
しかし、価格面では難があります。
こう考えてみれば、STIとSTI Sportが同価格にある時点で、スバルがSTIをスポーツブランドの象徴にするという計画自体が破綻していることになります。
「STI」のブランド力が確立されたうえでの「STI Sport」であることを、忘れてはいけません。
WRX STIはスペシャルモデルにするべき
ここで、WRX STIはもっとスペシャルモデルにするべきということがわかりました。
そうしなければ、車好きの中だけでのスバルであって、一般の多くの人に認知されるブランド形成は不可能です。
私自身、WRX STIの価格は700万円までは上昇させてもいいと思います。
そうなった場合、一番のライバルは、メルセデスAMG A45ですね。
メルセデスAMG A45は2.0Lターボ搭載の4輪駆動車なので、WRX STIと同ジャンルになります。
なお、メルセデスAMG A45と販売競争をするには、今以上に、さらには700万円という価格に見合うだけように、WRX STIの魅力を磨く必要はあります。
具体的には、S208のようなスペシャルモデルをWRX STIの通常モデルにすることです。
バランスドエンジンや、カーボンパーツも標準装備すればいいと思います。
その結果、WRX STIに700万円に相当するだけの十分な魅力を与えて、その価格と過剰性能を世界に対してアピールすることで、本当の意味でSTIブランドが成長するといえます。
WRX STIはポルシェ ケイマンとも比較できる
WRX STIを700万円クラスにする理由としては、もうひとつ面白いことがあります。
水平対向エンジンを製造しているもう一つの会社、ポルシェの存在です。
どうも、最近ではスバルの高級車版がポルシェと考える傾向が強いのでしょうか?
東京スバルがポルシェの取り扱いを始めているあたりから、こうしたイメージも根強くなってきているように思います。
※余談ですが、私個人としては、東京スバルがポルシェの取り扱いを始めること自体は、スバルとSTIのブランド形成においてマイナスなポイントだと思います。
ブランド形成のためには孤高の存在である必要性も高く、関係のない他社とのブランドを取り入れることによる上下関係を明確にしてしまうと、それ以上の展開ができなくなるので頭打ちになるからです。
ただ、ポルシェは水平対向エンジンを搭載しているとはいえ、実際に水平対向エンジン搭載モデルは、ケイマンからですよね。
2019年8月現在で、ケイマンの価格は680万円です。
ポルシェで水平対向エンジンを搭載しているのはクーペモデルのみで、エントリーモデルはケイマンとなります。
したがって、700万円以下の水平対向エンジンを搭載している車の枠ががら空きです。
このがら空きの市場にめがけて、すなわちWRX STIを700万円で販売することを前提に開発をすれば、WRX STIとケイマンを同格にまでもっていくことができるでしょう。
特に、今回のケイマンは水平対向6気筒エンジンから、水平対向4気筒2.0Lターボ 300PSにダウンサイジングしました。
WRX STIも水平対向4気筒2.0Lターボなので、4気筒のスポーツモデルとして同じジャンルで十分戦えます。
ポルシェ ケイマンから、完全バランスを誇る水平対向6気筒エンジンの魅力が消えた今、STIが一気に勝負をするチャンスだと思います。
ケイマンと匹敵する性能を有する、700万円のWRX STIの走りが、400万円台のレヴォーグやWRX S4のSTI Sportで味わうことができるとなれば、STI Sportの魅力が増しませんか?
700万円のWRX STIが売れるのか?
WRX STIの価格を上昇させる提案をしましたが、あとは700万円のWRX STIが本当に売れるのかが重要なところですよね。
市場としては、700万円以下の水平対向エンジン搭載車はがら空きです。
700万円以下の水平対向エンジン搭載のAWD車と言うことで、この市場は独占できます。
(もちろん、かなりマニアックな市場ではありますが、独占できるのは強いです。)
あとは、ケイマンと比較してどの程度の魅力をアピールできるかでしょう。
700万円のケイマンはエントリーモデルに近いです。
それなら、STIの最上級モデルとして、カーボンパーツも多用し、バランスドエンジンを搭載したWRX STIなら十分勝負できるのではないでしょうか?
また、700万円のWRX STIとしては、S208の例を見ても、一定の需要はあるでしょう。
もしも本当に700万円のWRX STIが売れなかったらどうするのか?
WRX STIの価格が現状の400万円から高くなり、販売台数が半減しても、価格を倍近い700万円に設定すれば回収できます。
そもそもスペシャルモデルである以上、全員が購入できる必要性もありません。
あこがれの存在として象徴にすることも大事です。
また、自動車業界は広告費に対して資金の必要な業界でもあります。
今の中途半端なブランド構成のまま広告費に莫大な資金を投入するのであれば、少し広告費を削って、STIブランドの形成のために、思い切ってWRX STIの値段を700万円まで引き上げる必要があると思います。
ケイマンと匹敵する性能を有する、700万円のWRX STIの走りが、レヴォーグやWRX S4のSTI Sportで味わうことができるとなれば、STI Sportの魅力が増します。
ある意味、ポルシェのブランド力を逆手に取った戦略ともいえるでしょう。
現状においてのSTIとSTI Sportの関係では、視覚的、直感的にハッキリとアピールするほどの差が存在しません。
売れる売れないは別として、ブランド形成の一環として、WRX STIは一気に上級シフトするべきだと思います。
スバルはクルマの完成度は高いのですが、こうしたブランド形成の面では正直下手だと思います。
限定車の連続販売は長続きしないどころか悪影響もある
ここまで、スバルは限定車で販売しているWRX STIを標準モデルとし、車両価格を700万円近くまで上げるべきだと書いてきましたが、これにはもう一つ理由があります。
それは、スバルはWRX STIの限定車を700万円近い価格で売り出していますが、あまり過度に限定車ばかりを販売すると、いずれは悪影響が出てくるからです。
標準モデルの魅力がなくなる
あまり限定車ばかり販売していると、WRX STIの基準が限定車のモデルとなる懸念があります。
言い換えるなら、本気でスバルが開発したWRX STIは限定車であり、標準モデルのWRX STIは一体何なんだ?という疑問が生じてもおかしくはないでしょう。
したがって、限定車の連続販売は、標準モデルのWRX STI自体の魅力を下げる販売方法であり、結局STIとしてのブランドイメージが何なのかが意味不明になります。
限定車購入層からの不満
S207→S208→RA-Rと連続的に販売し、次々と販売されるWRX STIの限定車。
S207は2015年、S208は2017年、RA-Rは2018年であり、以前とは比べ物にならない密度で限定車が次々と販売されています。
この記事を書いている時点では、すでにS209の話題が出ています。
限定車を購入する人は何を考えているでしょうか?
限定車を購入し、所有する喜びを感じたいのではないでしょうか?
それなのに、やっと手に入れた限定車が納車される頃には、次の限定車に話題が移っている状態。
これって、不満がたまりませんか?
え?何のための限定車?となりませんか?
限定車という性質上、納車された時点ですでに過去の車になっているのです。
いつでも買える限定車になる
限定車は期間限定のスペシャルモデルだから価値があり、購入意欲が増すのです。
毎年毎年販売されているような限定車であれば、「どうせ来年また販売されるんでしょ~。もっと性能良いのが。」ってなりませんか?
こうなると、もはや限定車ではありません。
こんな理由から、WRX STIは限定車として販売されるモデルを標準モデルとするべきで、限定車を販売するならさらにその上を行くモデルし、限定車の販売間隔は型式レベルで見て1世代に1モデルで十分でしょう。
限定車の連続販売は、今はいいかもしれませんが、いずれは頭打ちになると予想できます。
まとめ
ここまで、スバルのSTIブランドの形成が失敗する可能性について考えてきました。
もしもスバルの社員の方が読んでいたら伝えたいことがあるのですが、
この世界では、本当にいいものを作っても売れません。
みんなブランドイメージや、先入観によって、ある程度選択肢を絞ってしまいます。
その選択肢から外れていては、もはや販売戦略は失敗しています。
したがって、本質的なモノの良さよりも、宣伝方法によるイメージによってある程度は決まってしまいます。
このため、ブランド形成のためには、まずは消費者の選択肢の中に入ることが重要です。
スバルにおいて、STIブランドをモータースポーツの象徴にするのであれば、まずは、多くの人のイメージの中に、過剰性能と高価格である、スペシャルモデルであるイメージを植え付けることが大事です。
ライバルをケイマンとしてWRX STIを発表したらインパクトがあるでしょう。
そこで、多くの人がケイマンとWRX STIを比較し始めるでしょう。
興味を持ち、詳細を調べた結果、ケイマンもWRX STIも4気筒エンジンなのだから、スペック面において差がないということを知ります。
消費者は、この瞬間に初めて本質を知るのです。
ポルシェ ケイマンが4気筒になったことで、ポルシェ ケイマンを足掛かりにSTIブランドを上昇させるチャンスです。
このチャンスを逃さないように、スバルは一気に駆け上がってほしいものです。
ところで、WRX STIとシビック タイプRはフル加速でどっちが速いか気になりませんか?
そこで、ブリュの公式ブログでは、加速性能の違いを可視化しました。
ポイントは、クラッチミートの際に、最大トルク発生回転数を維持することです!