量産車最強の4気筒エンジンを搭載するメルセデスAMG A45,CLA45,GLA45。
2.0Lターボで最高出力は381PSを誇っており、その圧巻の加速性能が注目されています。
しかし、ターボ車にはターボラグがあり、排気量に対し高馬力のターボエンジンほどその影響も大きく、必ずしも出力の大小が0-100加速タイムには影響しません。
ターボラグまで考慮して、381PSに出力アップしたエンジンの加速性能を評価します。
目次
疑問に思うこと
A45,CLA45,GLA45が速いのは分かってます。
しかしその理由は何でしょうか?
381PSのエンジンを搭載しているから?
そう思っているのなら、
2.0Lターボエンジンであることを考慮するとつじつまが合わなくなります。
なぜなら、
出力アップ
→過給量アップ
→タービンが大きくなる
→タービンの慣性モーメントが大きくなる
→ターボラグが大きくなる
→発進時のレスポンス悪化
→発進加速が遅くなる
という状況に陥ります。
つまり、ターボ車では、高出力と発進性能は、ある程度トレードオフの関係にあることが分かります。
余談ですが、ドイツ車のダウンサイジングターボ車が国産ターボ車よりもエンジン出力が低く抑えられているのは、
出力を上げた代わりに発進加速性能が悪くどっかんターボになるのを防ぐためです。
実際に、低馬力のドイツ車でも、「街乗りではきびきび走り、ダイレクト感がある」といった感想を持つ方が多いのではないでしょうか?
※このことについては、別の記事でまとめることとします。
話を元に戻しますが、2.0Lターボで381PSだから速いというのは、
ゼロヨンが速いことの説明にはなりますが、
0-100が速いことの説明にはなりません。
ゼロヨンでは、エンジンをフル回転で走行する時間が長いので、おおよそ最高出力勝負になります。
しかし、0-100では、発進時のレスポンス、つまりエンジンの立ち上がりまで影響してくるので、最高出力だけでは語り切れません。
このことについて考えていこうと思います。
A45/CLA45/GLA45のスペック
直列エンジン4気筒 2.0L ターボ
最高出力:280kW(381PS)/6000rpm
最大トルク:475Nm(48.4kgf・m)/2250-5000rpm
トランスミッション 7DCT
1速:3.857
2速:2.429
3速:2.905
4速:1.189
5速:0.872
6速:1.162
7速:0.936
最終減速比
1/2/4/5速:4.133
3/6/7速:2.385
まずは性能曲線を写す
代表点を定め、エクセルにプロットします。
代表点として選んだのは、
225Nm/1250rpm
250Nm/1500rpm
475Nm/2250rpm
475Nm/5000rpm
280kW(381PS)/6000rpm
400Nm/6500rpm
としました。
これによって得られた性能曲線は次になります。
オリジナルの性能曲線とほぼ同じものが得られたことが分かります。
この作成した性能曲線を基に議論を進めます。
ターボラグの補正
現在乗っているレガシィDITのエンジンスペックを基準に補正を掛けます。
現在のレガシィのエンジン性能は、
300PS/5600rpm
400Nm/2000-4800rpm
です。
しかし、実際に停止状態からアクセルを全開にした時の加速では、
2500rpmまでは加速は悪く、2500rpmから4000rpmで非線形な立ち上がりを見せ、
そのままリニアに加速していくという挙動を取ります。
つまり、読み替えれば、
2500rpmまでがターボラグ、
2500-4000rpmがターボが効き始めて急速にトルクが上昇する回転域
4000rpm以降が本来の性能(エンジン性能曲線に沿った性能)
と言うことになります。
このデータを、すべての車種に共通にするための補正を次のように考えます。
まず、最大トルクの発生回転数を見ます。
レガシィは、2000rpmから最大トルクが発生するとなっていますが、
実際にターボが効き始めるのが2500rpm、
完全にターボが効くのは4000rpmであり、
スペック上の最大トルク発生回転数の2000rpmからそれぞれ1.25倍、2倍のずれがあります。
A45の場合は2250-5000rpmですね。
つまり、第一段階の補正で、A45は、
2812.5(=2250×1.25)rpmでターボが効き始め、
4500(=2250×2)rpmで完全にターボが効くと分かります。
次に、2つめの補正を考えます。
まず、トルクは吸気量に依存するため、レガシィの最大トルク400Nmとの比を取り、その分だけ上記データに掛けます。
つまり、A45の最大トルクは475Nmなので、475÷400=1.1875を掛けることにより、
ターボの効き始めが3400rpm
ターボが完全に効くのが5343.75rpm
であることが分かります。
これらをもとにして、A45/CLA45/GLA45の加速性能を可視化していきます。
1速加速中のエンジン性能曲線
ターボラグを含めたエンジン性能曲線を描きます。
アイドリングから3400rpmまでは、2.0Lハイオク仕様のNAエンジンと同等であることから、
同じスペックとしてBRZのエンジン性能曲線を用います。
5343.75rpm以降はターボがきっちり効くので、A45AMG本来のエンジン性能曲線になります。
3400rpmから5343.75rpmは、ターボが立ち上がる区間です。
非線形な加速を数値化するため、トルク曲線を、
BRZの3400rpmのトルクと、
A45AMGの5343.75rpmでのトルクを直線で結んだものを用います。
加速は馬力と書きましたが、これで馬力はトルク×エンジン回転数に比例するため、
トルクをエンジン回転数に比例させることで、馬力はエンジン回転数に対して2次関数的に変化するようになります。
そのグラフを以下に示します。
見て分かる通り、まるで扱いやすいエンジンとは言えない性能曲線となりました。
では、なぜ加速が良いのか?
車速に対する馬力特性を描いて、可視化しましょう。
車速に対する馬力特性
車速に対する馬力特性を見ればエンジンの発揮する加速力の変化がわかります。
このグラフは、各車速でエンジンが発揮しうる最大の馬力(=加速力)を示します。
1速での加速では、一部2速の馬力が上回る部分がありますが、
これはターボラグを考慮したためであり、発進後すぐに2速にシフトアップするという意味ではありません。
1速はターボラグを考慮、2速以降は考慮していません。
1速の加速中にエンジンを十分に回すため、タービンは十分に加速している状態と考えているからです。
これよりわかるのは、A45AMGは相当などっかんターボであること。
どっかんターボの扱いにくさを解消するために、1速のギア比を下げて、エンジンを高回転まで回し、
早急にターボが十分効いた状態にしてから2速にバトンタッチする。
という制御ですね。
まとめ
ここまで、メルセデスAMG A45の加速性能についてターボラグを考慮して考察してきました。
A45AMGは、直列4気筒エンジン2.0Lに、過給能力の高いタービンを装着しています。
過給能力の大きいタービンは、慣性モーメントが大きい分、回転させるためのエネルギーが大きく、発進時のレスポンスが悪いです。
このままでは、相当などっかんターボになってしまいます。
これを改善するために、1速のギア比をかなり軽くして、
エンジンを一気に高回転まで回す。
すると排気ガスの量が一気に増え、タービンを加速することができる。
タービンが十分加速し、エンジン性能曲線に沿った性能を発揮するようになると、
2速にシフトアップしてグイグイ加速していく。
ということが分かりました。
これが0-100が速い理由ですね。
新型のメルセデスA45SとA35のローンチコントロール作動時のフル加速について比較を行いました。
新型のメルセデスAMG A45SとA35の、街乗りでの加速性能について比較しました。ローンチ作動時とは違った世界が見えてきます。
車の加速性能は馬力で決まる理由を解説します。