純粋な大排気量エンジンを積むIS350。
対して、2.0Lエンジンを過給し、3.5L相当にまで高められた低速トルクを発揮する話題のダウンサイジングターボ、IS200t。
ターボラグを考慮することにより、どちらがどれだけ速く、どのような点で優れているのかを可視化しました。
目次
IS350とIS200tのエンジンスペック
まずは、レクサスIS350とIS200tのエンジンスペックを紹介します。
IS350
エンジン:V型エンジン6気筒 3.5L
最高出力:234kW(318PS)/6400rpm
最大トルク:380Nm(38.7kgfm)/4800rpm
IS200t
エンジン:直列エンジン4気筒 2.0L ターボ
最高出力:180kW(245PS)/5800rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgfm)/1650-4400rpm
まずはエンジン性能曲線を作成
エンジン性能曲線を作成します。
先にトルク曲線から作成しましょう。
まずはIS350からです。
代表点を決めますが、スペックから
- 234kW/6400rpm
- 380Nm/4800rpm
は決定します。
6400rpmのトルクは、出力234kWから逆演算します。
その他エンジン性能曲線を眺めると、すべての代表点は、
エンジン回転数 | トルク | 出力 |
1000rpm | 260Nm | |
2000rpm | 350Nm | |
— | ほぼ一定 | |
4000rpm | 350Nm | |
4800rpm | 380Nm | |
6400rpm | 234kW | |
6600rpm | 330Nm |
6400rpmに関しては、出力からトルクを逆算します。
求めたトルクの代表点を直線で結び、トルク曲線を描きます。
そして、トルク曲線から出力曲線を計算すると、IS350のエンジン性能曲線をエクセル上で再現できます。
同じ手順で、次にIS200tです。
スペックから、
- 184kW/5800rpm
- 350Nm/1650-4400rpm
が決定します。
次にエンジン性能曲線から、わかることと合わせて、次の代表点を選びました。
エンジン回転数 | トルク | 出力 |
1000rpm | 270Nm | |
1650rpm | 350Nm | |
— | 一定 | |
4400rpm | 350Nm | |
5800rpm | 180kW | |
6200rpm | 275Nm |
5800rpmにおいては出力からトルクを逆算し、トルクの代表点を直線で結びます。
そして、トルク曲線から出力曲線を計算することで、IS200tのエンジン性能曲線を、エクセル上で再現することが可能になります。
IS200t発進時のエンジン性能曲線の考察
さきほど作成したエンジン性能曲線はIS200tのエンジン性能曲線は、IS200tの本当の性能を把握するうえでは不適切なエンジン性能曲線です。
ダウンサイジングターボの魅力は、低回転から太いトルクが発生することですが、それはターボが効いてからのこと。
停車時には当然ターボは作動しませんし、動き出してすぐにターボが作動するわけでもありません。
加速中に徐々にターボが効いていき、最終的に本来のスペックに遷移していくことになります。
この時間的な遅れをターボラグといい、ターボ車の加速性能を評価するうえでは必ず取り入れなければならないポイントです。
ターボラグの絶対的な評価方法はなかなか難しい部分があるのですが、この部分に関しては経験則から反映させていきます。
話は変わりますが、私は現在レガシィDITに乗ってます。
レガシィはターボ車で、当然ターボラグがあります。
カタログスペック的には、
エンジン:水平対向4気筒 2.0L ターボ
最高出力:221kW(300PS)/5600rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgf・m)/2000-4800rpm
となっています。
このレガシィで停車状態からフル加速を行ったとき、2500rpmまでは本当におとなしいです。
そして、2500rpmから4000rpmにかけて非線形に急激にパワーが立ち上がり、4000rpm以降はリニアに加速が伸びて5600rpmまで加速します。
これより、次のことが言えます。
ターボが効き始める回転数 | ターボが完全に効く回転数 | |
カタログスペック | 2000rpm | |
実際の加速 | 2500rpm | 4000rpm |
カタログと実際の差(比率) | 1.25倍 | 2倍 |
この比率をターボラグの考察において取り入れます。
なお、この比率に関しては最大トルク400Nm、排気量2.0Lのレガシィを基準としています。
よって、最大トルクの違い、排気量の違いがあれば、その車に対して補正を行う必要性が出てきます。
IS200tに適用
IS200tの場合、カタログスペック的に見たターボが完全に効くエンジン回転数は1650rpmです。
これを基準すれば、
- ターボが効き始めるのは1650×1.25=2062rpm
- ターボが完全に効くのは1650×2=3300rpm
となります。
2063rpm以下ではターボが効いていない状態なので、2.0LのNAエンジンと同じ特性です。
そして、3300rpmから先は、IS200tのカタログスペックで掲載されている性能曲線に従います。
2063rpmから3300rpmまでの間は、トルクを直線で結びます。
一定トルクがリニアな走りであるならば、一次関数のトルク変動は非線形な加速を再現しています。
これは、出力がトルクと回転数の積であり、トルクが一定なら出力は一次関数になり、トルクが一次関数なら出力が二次関数(非線形)ということからも、容易に想像ができることです。
なお、レクサスIS200tの2063rpm以下に相当する2.0LのNAエンジンとしては、スバルBRZのエンジン性能曲線を取り上げました。
ハイオク仕様の2.0L NAエンジンとなれば、本来はアベンシスが直列エンジンなので適当なのですが、エンジン性能曲線を掲載していなかったので、BRZで代用しています。
ターボラグを考慮したIS200tエンジン性能曲線
さて、ここまでの考察によって、IS200tのターボラグを考慮したエンジン性能曲線が完成しました。
下の図が、IS200tのターボラグを考慮したエンジン性能曲線です。
再度になりますが、上記のエンジン性能曲線の説明を行うと、2060rpmまではターボが作動しない回転数として、スバルBRZの2.0L NAエンジンの性能曲線になっています。
ターボが十分効くであろう3300rpm以降は、IS200tの性能曲線になっています。
2060~3300rpmでは、トルクはエンジン回転数に比例して立ち上がるという仮定を入れました。
ここで注意点なのですが、加速性能、すなわち古加速を議論するうえにおいて、上記のターボラグを考慮しているエンジン性能曲線は、1速のみで使います。
2速以降はターボは十分に効いているので、どんなに回転数が低くても、IS200tのカタログ表記されている本来のエンジン性能曲線に従うことになります。
IS350とIS200t発進加速性能比較
では、実際にIS350とIS200tの加速性能を比較していきましょう。
まず、停止状態からアクセルを全開にした場合、IS200tはターボラグが生じるため、1速での加速では、「ターボラグを考慮したエンジン性能曲線」が適用されます。
この時の状態を、エンジン性能曲線で見比べます。
IS350
IS200t(ターボラグを考慮)
全開発進加速の1速では、IS200tのターボの低速トルクが発揮されず、IS350が圧倒的に速いことが分かると思います。
よって、出足に関してはIS350に軍配が上がります。
次に、シフトアップされ、2速になれば、ターボは十分効いているため、IS200t本来のエンジン性能曲線が適用されます。
この状態でIS350とIS200tのエンジン性能曲線を比較してみましょう。
IS350
IS200t
フル加速のみを考慮するのであれば、最高出力が要になります。
最高出力を比較すれば、IS350のほうが圧倒的にパワーがあり、加速性能に優れます。
よって、IS350とIS200tでフル加速を行った場合、IS200tではIS350に絶対に追いつけないです。
結局のところ、フル加速においてはダウンサイジングターボの低速トルクの太さというメリットが全く生かせないので当たり前といえば当たり前のことなのです。
じゃあ、IS200tにメリットはないのかとなれば、日常加速において十分なメリットがあります。
IS200tの長所は?
フル加速においてのIS200tのメリットはありませんが、日常的な場面を考えてみます。
例えば、高速道路の巡行中に追い越しをかけるとき。
この時は2000rpm程度で巡行しているとすれば、IS200tはターボがすでに作動していますね。
すると、ターボラグを考慮していないエンジン性能曲線にしたがって、加速を行うことになります。
この時、2000rpm近傍での出力曲線を見れば、IS350とIS200tにそん色がないことがわかるでしょう。
IS350
IS200t
よって、高速道路での追い越しをかける場面などでは、IS350とIS200tの加速性能は同等になります。
このワンシーンを取り上げることで、IS200tは3.5L相当の動力性能があるといわれています。
あらゆる場面で3.5L相当の動力性能を発揮するわけではなく、高速道路やバイパスでの追い越しのシーンにおいてのみ、3.5L相当の動力性能になると考えて問題ないです。
そして、IS200tは、2.0Lで税金面で有利であり、さらにダウンサイジングターボであることから、燃費もいいです。
よって、IS350よりもランニングコストを抑えることができるにもかかわらず、一番パワーが欲しいシーンである高速道路の追い越しにおいて、IS350と同等の動力性能となります。
これが、IS200tのダウンサイジングターボの最大の魅力となるのです。
まとめ
ここまで、レクサスIS350とIS200tの加速性能について比較してきました。
まとめるなら、
- 動力性能で全面的に優れるのはIS350
- 高速道路の追い越しなどではIS350とIS200tの加速性能は同等
- IS200tはランニングコストを抑えることができる
ということになります。
IS200tはIS350と同等の加速性能であると評価している方もいますが、動力性能が同等になるシーンは高速道路の巡行おからの追い越しなどに限られるという点については、しっかりと認識をしておいてください。
以上、レクサスIS350とIS200tの加速性能の比較について、参考になれば幸いです。